授業が終了した事を知らせるチャイムが鳴る同時に殆どの生徒は教室から出て行く。
ある程度は教室に残っているが、出て行った人数に比べると少ないだろう。
クラスメイトに釣られる様に美坂チームも教室を出て行き、ある場所を目指す。
美坂チームがその場所に辿り着いた時はかなりの生徒がおり、人口密度が集中しているのは一目瞭然だろう。
香里は眉間に指を押さえながら、出遅れた事に関して溜息を吐いて周辺の人物を散らす様に動き出す。
「何時もの様に名雪と北川君は席を取っておいて」
北川と名雪は頷いて、4人分の席を取る為に走り出す。
席の数が少しずつ減っていく様子は遠目からでも窺えたので、二人はタイミング良く同時に空いている席にタッチする。
北川は親指を立てて、名雪は両手を大げさに振って席が取れた事を祐一と香里に伝える。
「……今度はこっちが突っ込む番か」
何時もやっているので慣れている祐一だが、げんなりとした表情で人込みを眺める。
香里はあきらめなさいと思える表情を隣で人込みを見て、嘆いている祐一の肩を叩いて笑い出す。
食器をテーブルに置く音が響いたり、話声が賑やかになっており何時もの食堂であった。
勿論、この四人―――美坂チームも談話をしながら食事をしていた。
それぞれが頼んだメニューは中和洋とまったく種類が違うのだが、誰も気にせずに自分が頼んだメニューを消化して行く。
一番先に食べ終わった祐一は空になった食器を端に退けて、テーブルに腕を乗せる。
「美坂、近い内に部活で試合するそうだがどうなんだ?」
口に含んだ物を飲み込むと香里はあたしは出ないけど、と北川の言い方を指摘して言い直させる。
「うーん、相手チームは全国行っているから厳しいと思うわよ」
「そういえば、香里の部活って何だったんだ?」
祐一は少し前に香里に所属部活を聞いたが、はぐらかされた事を思い出して聞き出そうと身を乗り出す。
祐一は頷くが名雪と北川は知っているので、食事の方に集中している。
「相沢君だけが知らなかったのね。で、あたしが所属していたのは女子バスケ部よ」
祐一は香里がバスケをしている所を想像して、にやけた表情でなるほどと呟く。
容易に祐一が想像出来たのは祐一の彼女―――朔夜が香里と同じ様に女子バスケに所属していたからだろう。
「何で、にやついているのかしら?」
さあな、と祐一はにやついていた理由を誤魔化す様に名雪が注文したデザートに手を伸ばす。
名雪はその行動を眺めている事しか出来ずに、祐一が食べている所を見て眉間に皺を寄せて唸る。
空になったデザートのカップを祐一はトレーに何事も無かった様に戻して、名雪は小さく溜息を吐いた。
「所で、対戦高校って何処なんだ?」
「東京にある成川高校って所よ」
祐一は高校の名前を聞いた時に、マジと香里に聞き返してしまった。
そのため、祐一以外の三人は祐一はこの高校からの転校してきた事が直感的に分かった様だ。
「相沢君」
香里は祐一に甘える様な声を出して、ある程度の役に立つ情報を引き出そうとしてみる。
知っていても簡単に言うと思うか、と祐一が口を尖らせながら言うと香里は何事も無かった様にあっさり流す。
祐一はちっ、と舌打ちをしてあっさりと流された事が悔しいのか香里を睨む。
香里は涼しげな表情で祐一の睨みを見ないで、トレーに乗せてある缶コーヒーのプルタブを開ける。
祐一が香里を睨んでいる状態が解消されるのは昼休みの終了を告げるチャイムが鳴るまで続いていた。
慌てて四人は教室に向かって行ったが、運が良かったのか教師が入室すると同時に席に座り込んだ。
最後に石橋教師から連絡事項が伝えられると、クラスメイトは思いのまま行動を開始する。
掃除当番はかったるそうな表情で愚痴を零しながらも、テキパキと片付けていく。
「相沢の机、毎回言っているが重すぎるぞ」
机の中身を覗くと教科書やプリントが詰まっており、持ち上げるのが一苦労しそうであった。
少しは持ち帰れよ、と北川は祐一に怒鳴る様に呼びかける。
「善処はする」
やれやれ、と名雪と香里は埃が舞っている床を箒で掃きながら遠巻きに眺めていた。
教室掃除が終わると四人は鞄を持って、思いのまま帰宅をする。
香里だけは近い内に所属していた女子バスケの試合があるので、元部長として気になるのか覗きに行く。
北川は受験生なのだが、バイトがあるらしく商店街に向かって行った。
北川の背中を眺めながら、祐一と名雪は顔を見合わせるが昨日の事があるので話し難い様だ。
数秒か数分、沈黙が続いていたが先に均衡を破ったのは祐一である。
「名雪、今日は帰って来いって秋子さんの伝言あったぞ」
「今日はキチンと帰るよ。昨日は振られたんだから家には帰り難かっただけだよ」
名雪は黒い雲が流れていて雪が降りそうな空を眺めながら、ゆっくりと1歩ずつ歩き始めた。
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