有希が帰った後は二人はそのまま何処にも寄らずに家に帰る事にした。
     既に祐一の両手が塞がっているので、名雪がこれ以上買う必要が無いと判断した為である。
     先と違い名雪も数個荷物を持っており、祐一の負担は軽くなっているだろう。
     名雪が荷物を運んでいるのは、有希への対抗心があったからだろう。
     その名雪の行動を見た祐一は苦笑いを洩らして、名雪に睨まれてしまっていた。
     祐一は肩を軽く竦めて、先を歩く名雪の背中を眺めながら歩き出した。

 

    「この量は買いすぎだったな」
    「そんな事無いと思うよ?」

 

     首を傾げて抗議する名雪だが、語気は強くないので自分でも分かっている様だ。
     祐一は抱えている1つの袋の中を覗き込んで大きく溜息を吐いた。

 

    「どう見ても、自分用の土産の方が多いと思うぞ?」

 

     ピンク色の紙が包装されたお菓子類の箱が多数、袋に仕舞われていた。
     祐一がお金を出した訳ではないので、祐一からしたらそれは別に構わないだろう。
     数袋分も土産買う方が異常なので、祐一はそう思って言っただけであった。

 

    「だって、イチゴのお菓子だよ?」

 

     因みに名雪の言うイチゴのお菓子は、乾燥させた物を利用したのが殆どだった。
     まあ良いけど、と祐一はさらりと流して先に歩き出した。
     名雪はぶぅ、と頬を膨らませながら慌てて祐一と並んで歩き出した。

 

 

    「さて……明日帰る準備と掃除をするか」

 

     1週間も経たない内にこの家から水瀬家に戻る事になったのは祐一でも予想出来なかっただろう。
     そのため、各部屋は殆ど汚れていない状態に近いままであった。
     次帰って来た時には埃まみれに戻っているのは確かだが、一応掃除しておいても損は無いと言われたので渋々と始めた。
     暫らく掃除機を掛ける音だけがリビングを支配しており、時々電源を切る時だけ静粛になっていった。
     全ての掃除が終わった時にはかなりの時間が経っており、二人でやっていなかったらもう少し時間が掛かっていただろう。

 

    「ねえ、今でも好きなの?」

 

     祐一はその意図が暫らく分からなかったので、名雪に再度聞きなおした。
     名雪はリビングのソファーに深く座りこみながらクッションを抱え込んでいた。

 

    「だから、朔夜さんの事だよ」

 

     祐一は声を搾り出したように唸りながら、聞かれた事を答えようとする。
     祐一の唸り声だけがリビングを支配しており、名雪は祐一を見つめる様にして静かに答えを待っていた。
     名雪はこの事を切り出せないのは分かっているが、帰る前にどうしても聞きたい事でもあった。

 

    「……多分、今でも好きだと思う」

 

     祐一が切り出した一言は単純に好きという答えだったが、多分と言っている辺り迷っているのも確かだろう。
     名雪はその答えに満足した様に頷きながら、心中は複雑であった。

 

    「……これで答えは良いのか?」
    「……うん、満足だよ」

 

     そうか、と祐一は一言だけ洩らして、そのまま沈黙をしてしまった。
     名雪も抱え込んだクッションをぎゅっ、と強く抱きしめていた。
     ふたりはそのまま沈黙したままであり、視線を逸らしたりなどは無かったが会話が殆ど続かなかった。
     リビングには夕日が差し込んでおり、二人は夕日が出るまで殆どその場から動いていなかった。
     二人の横顔は夕日によってオレンジ色に染まっており、儚そうな表情になっていた。

 

    「さて、明日の帰る準備しないとな」

 

     祐一は立ち上がって、二階にある掃除したばかりの部屋に向かう。
     名雪も釣られて立ち上がると、キッチンに置いてあった土産も持って行こうとする。
     んー、と名雪は考えて手に持っている土産と荷物の量を想像して一言呟いた。

 

    「……送れば良かったよ」

 

     はぁ、と深く溜息を吐いて名雪は渋々と土産を2階に運んで行った。

 

 

    「明日は早起きだからな?」

 

     えっ、と情けない表情をした名雪は聞き返して答えが変わらないと分かると溜息を吐いた。
     祐一のその一言は名雪にとって難しい問題であった。
     そのため、名雪は力なく頷く事しか出来なかった。

 

    「が、頑張って見るよ」
    「自力で起きないと、置いて行くからな」

 

     ますます絶望的な表情になった名雪はうー、と唸るだけであった。
     もう寝たらどうだ?、と祐一がからかうと名雪は本気に悩み出した。
     その考える姿を見て祐一は苦笑いを洩らし、名雪がどうするか見物にしていた。

 

    「因みに6時起きだ」

 

     その一言で完全に名雪は無理だと判断した様であり、小さく溜息を吐いた。
     そして、打ちひしがれた表情のまま秋名の寝室に向かって行った。
     祐一は寝るのだろうと判断して、名雪の背中を見送った。
     名雪が早くに寝てしまったので、室内はガランとしており祐一自身の息遣いが聞こえているだけであった。
     手持ち沙汰になった祐一は如何した物か、と考え手元にある携帯電話に手を伸ばした。
     短縮ダイヤルに登録されている番号を押して、耳に当てるとコール音が流れ出した。
     暫らくすると、電話を通して相手の不機嫌そうな声が祐一の耳に響いた。