祐一の両手には複数の荷物が握られており、荷物がずっしりと腕に重さが食いこんでいる。
     そして祐一の前を歩く名雪は手ぶらであり、祐一が殆ど荷物持ちとして運んでいた。

 

    「名雪、少しは持てよ」

 

     名雪はくるり、と祐一の方を振り向き嫌そうな表情を祐一に見せ付ける。
     その表情を見た祐一はちっ、と舌打ちをしながらそのまま荷物を持ち続けた。
     祐一は先を歩く名雪を見て溜息を吐くが、溜息と舌打ちをしているのでその心境は複雑なのだろう。
     祐一は名雪を追いかける為、前を向いて歩き出すがその視点の先には音薙 有希が見えていた。
     有希も祐一の事を確認したのか小さく手を振りつつ、祐一に向かって駆け寄って行く。
     よっ、と一言挨拶すると有希は顎に手を添えつつ祐一が持っている荷物をまじまじと見る。

 

    「荷物持ちは大変だね」
    「そう思うなら、一個でも良いから手伝ってくれ」

 

     はいはい、と答えながら有希は1つ軽そうな荷物を受け取り祐一の負担を軽くする。
     名雪は自分が祐一を置いて先に行った事を気付き、慌てて人込みを掻き分けて戻ってきた。
     名雪は有希が祐一の隣にいるので僅かに躊躇いの表情を覗かせるが、普段と同じ様に二人に近付いて行く。
     名雪からの視線ではこの二人はお似合いに移り込んだのだろう。
     そのため近くの街路樹に身を寄せて、二人の楽しげな会話を聞いていた。

 

    「……え、明日帰るんだ」
    「ああ、もう用事は済んだ事だしな」

 

     暫らく、沈黙が続き二人の周辺では人々の会話や歩いている音だけが響いていた。

 

    「最後にあいつに会っておくつもりだ」

 

     ふーん、と有希は答えて祐一の左手を引っ張りながら歩き出す。
     じゃあ今から行こう、と有希からの無言の意思表示であるので、祐一は気にせず引っ張られて行く。
     名雪の方はあっ、と声を荒げて回りの人々を自分の方に振り向かせる。
     しかし、名雪はその事を殆ど気にした様子を見せずにこっそりと二人の後を付け出した。

 

    

 

      名雪はこっそりと後を付けているつもりだったが、有希はとっくに名雪の長い髪をみて隠れている時から気付いていた。
     そして墓場が近付いた時二人は立ち止まって、名雪が来るのを待ち出した。
     名雪は隠れながら、二人の近くまで行くが有希に呼びかけられてひょっこりと顔を出してしまった。
     顔を出した事で顔を赤くした名雪は苦笑いを洩らして、二人に近づく。

 

    「……こんにちは、音薙さん」
    「こんにちは名雪」

 

     祐一は荷物を名雪に渡して、墓場に向かって歩き出そうとするが名雪に止められる。
     名雪は祐一が何処に行くのかが気になったので聞き出したが、事実が分かると祐一をすぐさま解放する。
     有希は祐一の背中を眺めながら、寂しげな表情を浮かべつつ名雪と会話を始める。

 

    「名雪は何処まで知っているの?」

 

     うーん、と名雪は考えながら祐一に教えてもらった事を断片的に整理して語り出す。
     その教えてもらった事実は名雪がすっかり寝てしまった部分以外は、殆ど名雪の口から語られる。

 

    「じゃあ、殆どは知っているんだ」

 

     うんうん、と有希は目を軽く閉じつつ頷きながら腕を組んでいた。
     有希はチラリとウインク気味に片目を開いて、名雪が頷くのを確認する。
     祐一と行為をした事は振られていないので、有希はほっとした表情になる。
     有希はこの事を省いてくれたと思っているが、名雪は眠ってしまったので覚えていないだけであった。

 

    「この事実で分かったでしょ? わたし達が祐一から引いた事実が」

 

     名雪は困惑そうな表情を浮かべており、簡単には頷けなかった。
     有希は身を屈める様にして、名雪の顔を見上げる。
     そのたび、有希が身に付けている羽根を模したシルバーアクセサリーがゆらゆらと振り子の様に揺れる。

 

    「……うん、分かるよ」
    「あっ、でも親友としては手は引いていないから」

 

     その有希の一言で二人はくすっ、と小さな声で笑い出したので斑になっている人々が僅かに振りかえった。

 

     

 

      暫らく、二人は笑いながら会話をしていたが祐一が戻ってきたのを確認する。

 

    「じゃあ、お邪魔虫のわたしは帰るね」

 

     二人に向かって手を振りながら、有希は名雪の耳に口を寄せて囁いた。
     その一言は名雪の顔を赤くさせたので、有希は満足そうに帰っていった。
     そのため、名雪が持っていた荷物がどさどさと音を立てて地面に落下する。
     祐一は有希が帰った理由は何となく分かったので、敢えて名雪を追求しなかった。
     地面に転がっている荷物を祐一は溜息を吐きながら拾い上げる。
     祐一は赤くなって俯いている名雪の頬を叩いたり、引っ張りして感触を楽しんでいた。
     名雪が目を覚ましたのはそれから数分後の事であった。