祐一は自分の部屋で寝ている名雪を口にした通り叩き起こすが、名雪は起きた時非難轟々な目で祐一を睨んだ。
起こされたのは良いが叩き起こされたのが納得いかない表情であった。
名雪はぶぅ、と頬を膨らますが祐一は意に介せずそのまま挨拶をして自室から出て行く。
その事を訝しそう眉をひそめてに眺める名雪だが、祐一に一応だが起こして貰ったので2度寝もせずに着替える。
まだボンヤリとした表情をしながら、ボストンバッグに詰め込んである服を取り出す。
寝ぼけた頭で服を取り出そうとしている時、コツンと指先に違和感を覚えるが首を傾げて気のせいにする。
取り出した服に着替えると、軽く欠伸をして祐一の部屋からのそのそと目を擦りながら出て行く。
リビングでは祐一が朝食のトーストを齧っており、名雪が起きて来たのを確認すると手を上げて挨拶する。
名雪はキョロキョロと回りを見まわして、何かを探そうとしていた。
「ねえ祐一、秋名さんは?」
「もう向こうに帰ったぞ」
えっ、と名雪は驚いた表情を覗かせたので祐一はその表情を見て笑い出した。
がっくりと肩を落とした名雪は、溜息を吐きながら祐一の対面に座る。
「せめて、挨拶ぐらいしたかったよ」
苦笑いを洩らした祐一は、そのまま使用していた食器をキッチンに持って行く。
そして、食器を洗い流して水滴を拭き取って食器棚に戻す。
何か伝言はあった?、と質問した名雪だが祐一は首を振って何も無い事を示した。
「もうこっちでの用は終った事だし明日には帰ろうかと思うがどうする?」
「んー、わたしに聞かれても……」
困ると言う表情を覗かせたので、祐一は自分で考えるが唸り出した。
暫らく経った後祐一は考えが決まったのか、勢い良く立ち上がりリビングから出て行く。
キョトンとした名雪も慌てて立ち上がって祐一を追いかけ、リビングは殺伐となった。
リビングには秋名が使用していた灰皿が残っており、その存在を示していた。
「祐一どうするの?」
「明日帰る事にしたから、自由にして良いぞ」
ん?、と疑問そうな顔した名雪は祐一に質問をした。
「ねえ進学なの? それとも就職?」
「一応、向こうで進学だな」
ふうん、と名雪が両腕を頭の後ろで組んで何も無いリアクションするので祐一は苦笑いを洩らす。
祐一は玄関に座りこんで靴紐を結び直して立ち上がるが、名雪は佇んでいただけで外には行かない様だ。
「行かないのか?」
「うーん、道に迷いそうだから止めておくよ」
名雪はまだ、順応しておらず人込みに紛れて何処かに流されそうになるのが容易に分かる祐一だった。
その事を考えて、祐一が失笑を洩らすと名雪は首を傾げて不思議そうに自分より身長が高い祐一の顔を見上げた。
祐一は何でも無い、と言って誤魔化をすると名雪はそれ以上不思議そうな顔で追究をしなかった。
「じゃあ、俺は行くけど……秋子さんへの土産とか良いのか?」
祐一は立ち上がりながら、聞き出すが名雪はその事を言われて思い出した様だ。
あー、と言いながら人差し指で頭を掻き暫らく悩んだ末に行く事を決めた様だ。
ちょっと待ってて、と名雪は一言言って二階に駆け上がって行く。
祐一の部屋に置いてある自分のボストンバッグを開いて、今着ている室内着から着替える為に服を取り出す。
その時、ボストンバッグの中から見慣れない物が服と一緒に床に落ちる。
白い封筒を拾い上げて、くるりと回して見るが相手の名前すら書かれていないが秋名が入れたのは確かだろう。
がさがさ、と音を立てながら封筒を開くと一枚の便箋が覗かせた。
その手紙はただ一言簡潔に、尚且つシンプルにこう書かれていた。
――――祐一の事を任す。
と、書かれていただけであり後は秋名の名前が書かれていただけであった。
幾らなんでも文章が殆ど書かれていないので、情けない表情になる。
「……炙り出し?」
名雪が思い立ったのはそれだけであり、他には殆ど言葉が出てこなかった。
しかし、これだけの文章だが秋名の存在感が強く残るのは確かだろう。
くしゅん、とクシャミをした名雪は自分が下着姿なのを思い出して急いで着替え出した。
「遅いぞ名雪」
「女の子は支度に時間掛かるんだよ」
はいはい、と祐一は良く聞く台詞を聞き流して名雪の服装を見る。
白いワンピースと言う清楚な出で立ちだったので祐一は視線を逸らす。
名雪は祐一が視線を逸らした意図が分かったので、後ろからこっそりと祐一の腕を自分の腕に絡めた。
「さっ、今日が最後だし早く行こう」
なっ、と祐一が驚きの声を上げるが名雪は気にせず祐一の腕を引っ張って行く。
祐一は溜息を吐きながら、引っ張られて町を歩いて行った。
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