道路はオレンジ色と赤が交じり合った色で染め上げる。
     様々な形をした影は伸びて道路を黒く染めつつ、人の形をした影は人と共に動いている。
     人の形をした影は様々な方向に動いており、すれ違って行く。
     夕日は次第にビルの中を潜り込む様に消えて行く。
     祐一の横顔は夕日によってオレンジ色に染まっている。
     その横顔は憂いを帯びた表情を覗かせているが、夕日によって判別しにくくなっている。
     引越しする前には毎日使用していたと言って良いほどの待ち合わせ場所にはまだ、二人の姿は見えなかった。
     近くにあるやや汚れたガードレールに寄り掛かり、腕を組みながら目を閉じる。
     未だにジンワリとした暑さの中、汚れたガードレールに寄り掛かっているのは他人から見たら不思議に見えるだろう。
     すれ違う人々は一瞬だけ祐一を見るが、直ぐに祐一の前を通りすぎて行く。

 

     

 

      祐一の前には一つの影が伸びて、祐一の体を飲み込む様に覆い尽くす。
     閉じた目をゆっくり開けると、陽射しと共に目の前にいる人物のシルエットが浮かんでくる。

 

    「遅かったな、音薙」

 

     前屈みしている有希は小ぶりな胸の谷間が祐一に見える様にしている。
     首に巻いている羽を模したネックチェーンが屈んでいる間に左右に何度も揺れ、前髪の三つ編みも共に揺れる
     ネックチェーンは夕日によってオレンジ色に光り、揺れながら反射を繰り返す。

 

    「祐一が早かったんだよ」

 

     ぷうと頬を膨らませるがすぐに空気を抜いて普通にする。
     祐一は回りを見回して、もう一人の人物を探す。
     朔夜の事を聞こうとするが有希が遮る様に朔夜がいる方に指を指す。
     その方向には金糸が夕日によって輝いており、何時もより綺麗に見えるのか人々が朔夜の方を振り向いていた。
     そのため、朔夜はレンズが黒いサングラスで自分の眼を殆ど隠している。
     表情が見えない為、どのような表情になっているか不明だが朔夜にとっては不愉快な出来事だろう。
     朔夜はビルの壁に寄り掛かり、腕を組みながら祐一と有希がこっちに来るのを待っている。
     朔夜の様子を見た二人は苦笑いを洩らして、祐一はガードレールから身体を放して歩き出した。
     人ごみを避けつつ、祐一は朔夜の元に辿り付く。

 

    「サングラス掛けている方が目立つぞ?」

 

     朔夜はふん、と鼻を鳴らしサングラスを僅かにずらして祐一の顔を覗き込む。
     その目付きは普段と変わらず、氷のような鋭い目付きであった。

 

    「……眼を出していた方が目立っていたわよ」

 

     祐一は確かに、と言いつつ朔夜の深く吸い込まれそうな蒼い眼を見る。
     朔夜は黒いレンズのサングラスを掛けなおして、祐一を避ける様に歩き出す。
     祐一は軽く溜め息を吐いて、朔夜の背中を追いかける。

 

    「……早く行きましょ」

 

     すっぱりと切り捨てる様に言葉を紡ぎ、有希も放り出して先に行きだそうとする。
     有希は朔夜が先に行くのを探知していたのかグイッ、と腕を握る。
     朔夜はジッと握られている腕を見てから、有希の手を解き立ち止まった。

 

    「駄目だよ。先に行ったら」
    「……分かったら離して」

 

     有希は満面の微笑で朔夜の腕を握っており、なかなか離しそうも無いだろう。
     解いた手をもう一度握られたので、朔夜は眉間に皺を寄せて手を離そうとする。
     ぱっ、と手を離されたのをで朔夜は溜息を吐いて仕方なく祐一を待つ事にした。

 

    「先に行くなよ、朔夜」
    「……あたしの勝手でしょ」

 

     祐一は朔夜のほっそりとしているが筋肉がしなやかな肩を叩きながら言う。
     朔夜は肩を出すTシャツを着ているせいか直に肩を叩かれているのが嫌らしくしきりに肩を動かして止めさせようとしている。

 

    「こんな事していると余計時間が無くなるよ?」

 

     有希は自分の腕に巻いてあるシンプルなシルバー製の腕時計を覗き込む。
     覗きこんだ後、二人に見えやすい様に時計の針を見せる。
     時間は既に7時付近を指しており、回りは家への帰宅する人で溢れ返っていた。
     そして辺りは暗闇に覆われようとしており、夜はもう間際である事が窺える。

 

    「……そうね、そろそろ行きましょ」

 

     先ほどと同じ様に朔夜が先に1歩を歩き出すが、今度は有希は咎めようとしなかった。

 

     

 

    「なあ、あいつは俺を許してくれるのか?」

 

     友人の顔を思い浮かべながら、有希に答えを聞き出す祐一。
     有希は立ち止まって、沈んだ表情を浮かべつつ俯いて首を左右に振る。

 

    「……わたしからは何も言えないよ」
    「そう……だよな」

 

     二人の中で沈黙が暫し流れるが、朔夜は何時もと変わらない表情だった。
     しかし、何時もより悲痛な表情が僅かに浮かんでいるが二人とも気づいていなかった。

 

    「……今更謝っても意味あるのかしら?」

 

     ちらりと朔夜は目の前にある物体を見ながら、祐一に質問をする。
     祐一も朔夜の目線に釣られて、同じ方向を一瞬見るが目を逸らしてしまう。

 

    「……今しか謝る時は無いからな」

 

     決心した祐一は目の前にある物体――――新しい花が飾られた墓石に頭を下げた。