クイーンキラは10月29日行われる福島競馬場での最終未勝利戦に出走しようとしたが除外されてしまった。

     つまり最終戦に出走出来ずの引退となる訳だが、運が悪かったとしか言い様が無い。

     結局の所、最終戦は10月7日東京競馬場ダート1300mで行われた未勝利戦が最後だった。

     その時の結果もいつもと同じように、16番人気16着と指定席の座を譲る事も無かったが、逆にクイーンキラらしい引退となった。

 

    「実にクイーンキラらしいと言うか……」

 

     Kanonファームに戻ってきたばかりのクイーンキラを眺めながら、ポツリと呟く秋子。

     それでも、一生懸命に走っていた事を示す小さな傷が馬体にいくつも刻まれていた。

     レースでは結果が出せなかったが、次世代のために自棄悠々と過ごさせる訳にはいかないが、たった一言だけを紡ぐ。

 

    「お疲れ様」

 

     クイーンキラの頭を抱きかかえつつ、ゆっくりと額から鼻筋を撫でておりその様子は慈しみが感じられた。

     その時のクイーンキラの表情は実に安らいでいた事を記しておく。

 

 

     クイーンキラ

     1985年産 栗毛 牝馬

     父ハイセイコー

     母父ブレイヴァストローマン

 

     1987年9/17 新馬戦 中山ダ1200m 出遅れ 8枠13番 10番人気14着 伊藤

     1988年1/9 未勝利戦 中山ダ1200m 出遅れ 6枠7番 14番人気10着 佐山

     1988年2/12 未勝利戦 京都ダ1200m 後方そのまま 7枠9番 15番人気9着 加藤

     1988年7/12 未勝利戦 新潟芝1600m 後方そのまま 7枠9番 15番人気13着 加藤

     1988年10/15 未勝利戦 東京ダ1300m 後方そのまま 1枠2番 16番人気16着 加藤

 

     これがクイーンキラの競走中生涯成績であり、殆どが最下位と言っても良い程最悪の結果が多い。

     クイーンキラの馬房の横には血統図と主な成績が書かれた掲示板が貼り付けられており、5戦0勝となっている。

     大手牧場では0勝馬の数が少ないんだろうな、と秋子は思いながら表示板を撫でる。

     うっすらと白チョークの粉が指に馴染み、ハラハラと少しだけ地面に落ちる。

 

    「さて、そろそろ牧場の仕事をしますか」

 

     指に付いたチョークの粉を詰りながら、放牧地に向かって秋子は歩き出した。

 

 

     サイクロンウェーブが出走する。

     出走するレースは東京芝1800mで500万下。

     前走は直線で騎手が外に出すのをワンテンポ遅らせてしまった所為で、6番人気ながら4着に食い込んでいる。

     その事が評価されて、現在の人気は14頭中3番人気。

     競馬新聞の印は○、△、△、△、▲となっており期待させているのが窺える。

     オッズの方も6.5と単勝の売れ行きが良い事が分かる。

     サイクロンウェーブは2000mの成績があまり良くなく、1600m前後が一番良い様に感じる。

 

    「2枠2番……サイクロンウェーブ。馬体重、前走からマイナス4kg……」

 

     ザー、と僅かにラジオにノイズが走り、音質が安定しないが聞こえている分マシであった。

     今回こそ、勝って欲しいと言う願いがあるので誰も競馬場に行かずに、黙々と牧場作業をこなしている。

     見に行くと、負けている確率の方が高いのでG�気抜�待馬の出走以外では行かない事を決めてしまった。

     ただ、馬券の購入だけは別件のようだ。

 

    「……スタートしました。……サイクロン……6番手」

 

     中団に位置しているようで、東京競馬場の直線では逃げ、先行勢には厳しい事が多く、数々の馬が敗れ去っている。

 

    「1000m通過タイムは……1:00.02……」

 

     ややスローペース寄りのタイムだが、遅すぎる訳でもないのでマシと言えるがもう少し早い方が良い。

 

    「ここで1番人気の……が徐々に進出していく」

 

     秋子は牧場作業を少しだけ止めて、ジッとレースの動きを聴き入る。

     秋名も同じように聴き入っているが、手は動かしていた。

 

    「サイクロンウェーブは……に進出して現在……番手」
    「ここで先頭に踊り立ったのは……!!」
    「内から……が切り込んで来る!!」
    「外からスルスルと……を交わしてサイクロン……が2番手に」
    「残り300……先頭は……ウェーブ」

 

     ここで何故か、ラジオから音が聞こえなくなりザーとノイズばかりが流れており、2人は急いで家のリビングに向かう。

     丁度、ゴール入着した所なのかゆっくりと走りながらクールダウンを行っているが、映っている馬がサイクロンウェーブだった。

     掲示板に表示された番号は2番――すなわち、サイクロンウェーブが優勝した事が示されていた。

 

 

     戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。