サイクロンウェーブが4着に敗れたのは運の差だけ、現場――札幌競馬場で見ていた秋名は思った事を電話で秋子に伝える。

     こういう風に脚を余しながら進路が無くなって負ける事は日常茶飯事で、運が無かったとインタビューで使用される。

 

    「……後、少し早く外に出せていたらな」
    「そうなのか?」

 

     珍しく、秋名が言った事に反応して祐一が質問をする。

     秋名は口で説明すると難しいと感じたのか、レーシングプログラムの隅に簡単な図解を書いて説明を始める。

     描いたのは一本の直線と、長丸を4つ。

     1つの長丸は逃げ馬の代わりとして直線にくっ付く程の位置に描かれて、残り3つは、少しばかり離れた場所に描かれる。

 

    「まずは、これがサイクロンウェーブとするぞ?」
    「うん」

 

     ツンツン、とボールペンの先で軽く突っついている長丸は、逃げ馬と同じ場所を走っているのを指す。

     横にいるのは別の馬なのは、説明しなくても分かっているのでその点は省く。

     そして、残りの長丸はサイクロンウェーブの横にいる馬の真後ろに描かれた。

 

    「これで逃げ馬が下がってくるとどうなる?」
    「うーん、包まれて出られなくなった」

 

     そう言う事だ、と秋名はサイクロンウェーブの騎手が犯した騎乗ミスを敗戦で不味くなった煙草を吸いながらぼやいた。

     秋名は祐一に向かってある事を囁いた。

     騎手になったら、あんな風に囲まれての敗戦はするなよ、と当事者が聞いたら怒りそうな事を吹き込んだ。

 

 

     Kanonファームに帰ってくると、まるでお通夜の様に意気消沈している秋子と名雪の姿が見受けられた。

     やはりと言うべきか、ああいう惜しい負け方を見ると2人も悔しさがあり溢れるようだ。

     べったりと、テーブルに顔を乗せて無気力状態と言っても良いかもしれない。

     先に口を開いたのは名雪であり、不機嫌そうに頬を膨らませながらぼやく。

 

    「勝てると……思っていたのに」

 

     実に不満さが表れている口調であり、秋子も同じように同意しているのかも知れないが返事が無い。

     次走に期待するしかないなぁ、と名雪はボヤキながらもう一度、顔をテーブルにくっ付けてしまった。

     牧場の仕事は既に夜飼い葉を与えるだけなので今の所は、やる事は1つも無い。

 

    「こうなると、アストラルとジェットボーイに期待ですかね?」

 

     秋子は、ポツリと一言だけ呟くのみだった。

     クイーンキラは着外が多すぎて、掲示板にも一回も乗ったことが無い。

     サイクロンウェーブは今回だけ運が無かったので、次走には期待が掛かるが特別レースにはまだ厳しい感じ。

     なので、秋子の口から期待馬――ジェットボーイとアストラルの事が出たのは必然的だろう。

     ただ、秋子にとってはどの馬も期待している事は変わりなくその分、厳しくなってしまうのは当たり前。

     現時点では重賞で鼻差の2着に食い込んでジェットボーイが一番の期待馬なのは確かだろう。

 

 

     夕食の時間。

     全員がダイニングテーブルの前に座って、談話をしながら食事を進めていく。

     既にサイクロンウェーブの事は吹っ切れたのか、それとも話題から意図的に避けたのかは分からない。

 

    「ああ、そういえば……そろそろ馬名決めないとっ」
    「もう考えてあるのか?」

 

     口に入れた物を頬張りながら、名雪は口を開こうとするが秋子に咎められる前に一旦、口の中を空っぽにする。

     秋名に質問をされて曖昧な返事だが、取り合えずの感じで馬名を発表する。

     エレメントアローとエアフリーダム、と2つの馬名が浮かんだ名雪は浮かんだらしい。

     通訳すると4元素の矢と空の自由になるのだが、名雪は意味を知って付けたのかは不明。

     多分、TVか本から得た知識だろうな、と秋子は心の中で呟いたのか名雪の顔をジッと見てしまった。

     祐一は考えていなかったのか、それともネタ不足だったかは定かにならず名雪に譲るようだ。

 

    「どっちがエレメントアローなの?」
    「スティールハートの方がエアフリーダム」

 

     そうなるとアーティアス産駒が、エレメントアローになる事が確定する。

     秋子は後で書類に馬名を書かないとね、と滑らかに言ってから唐揚げを口に運ぶ。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。