サイクロンウェーブが久しぶりに出走する。
札幌競馬場で行われる3歳以上500万下に出走するのだが、約3ヶ月振りのレースとなる。
前走、同じレース――プリンシバルSに出走していたアストラルは頭角を現して500万下で3馬身突き放していた。
しかし、サイクロンウェーブが出走する札幌とアストラルが勝った小倉ではコース概念に違いがある。
札幌競馬場のコースは殆ど平坦なのだが、洋芝を使用しているので時計が掛かる事が多い。
小倉競馬場では直線こそは平坦だが、直線と1コーナーの間には3mの高低差があるので、アップダウンのコースと言える。
そして、何よりも大事な事がある。
夏の札幌と夏の小倉ではどちらが負担は厳しい事を考えれば一目瞭然であり、出走馬のレベルにも違う。
閑話休題。
アストラルが勝利した筑後川特別――芝2000mであり、タイムは2:00.45と実に平凡。
出来れば、このタイムより早い事を秋子は望んでいるがそれは贅沢な望みとも言える。
「主な人気馬は前走が2着馬とかですね」
それに比べて、とサイクロンウェーブの人気を見ると△が2つに▲が1つ。
12頭立て――直前に出走取り消しが1頭出たので11頭立てのレースで、サイクロンウェーブは6番人気と言ったところ。
しかも、古馬が一緒に出走しているのが一番のネックであり、3歳馬には少し厳しい。
アストラルが出走した筑後川特別も古馬が出走可能だったが、前走が大敗した馬が多かった事もプラス面だった。
サイクロンウェーブが出走する知床特別――芝2000mには夏の札幌らしく前走が掲示板に入った馬が多い。
「ちょっと……厳しくない?」
溶けかかった棒アイスを舐めながら、名雪はTVを軽く眺めて思った事を口に出す。
秋子もそう思ったのか、名雪の言い分に同意して席から立ち冷蔵庫から棒アイスを取り出す。
口に咥えたまま秋子は席に戻り、サイクロンウェーブの挙動を一動も見逃す気は無いのか集中している。
「それにしても……エアコンを入れてても暑いね」
名雪が言うとおりエアコンは効いているのだが、それほど効果が無いようで2人の髪型は現在、ポニーテール状になっている。
名雪は赤いリボンでポニーテールに、秋子はゴムで軽く縛っただけだが、母子そっくりな格好。
更に団扇を扇ぎながら、棒アイスを食べている姿はそっくりと誰が見ても思うくらい。
「まぁ、競馬場で見るよりはマシかな」
この場――Kanonファームにはいない秋名と祐一の事を思いながら、名雪は至福そうに呟いた。
その頃、秋名と祐一は札幌競馬場に来ていた。
偶には、と言う事で観戦とサイクロンウェーブの応援が目的だが、日差しが暑すぎるため、日陰で涼んでいた。
「もう、そろそろ始まるな」
秋名は腕時計を確認すると、長身が2と3の間で短針が8を指しており2:40だと分かる。
祐一は秋名の傍でカキ氷を食べており、秋名に急かされてかき込んで食べるが一瞬だけ動きが止まってしまう。
そして食べ終わった事を確認して急いでゴール前に向かって行くのだが、本日は重賞――札幌記念が行われる日。
なので、ゴール前は重賞で無くても混雑しており、更に床にシートを敷いている人物が多いのでなかなか近づけない。
なんとか人混みを避けて、ゴール前に辿り着くとレースは既にスタートしていた。
サイクロンウェーブは好スタートを切ったのか、現在は2番手からレースを進めている。
だが、本来の脚質は差し寄りなので徐々に位置を下げていき、6番手で落ち着く。
先頭の逃げ馬はかなりの差を付けて逃げており、このペースだと先行勢は厳しいので騎手の判断は正しい。
少しずつ隊列が縦長に変わっていき、1000m通過タイムが59.1と早い。
ただ、先頭を走っている逃げ馬は2番手から5馬身は付き離しているので直線の短い札幌競馬場の事を考えると逃げ切りもありえる。
この隊列が変わらないまま3コーナーを過ぎて、4コーナーになってようやく各馬が動き出す。
サイクロンウェーブは直線に入ってから手綱を扱かれ、鞭が入れられてエンジンが掛かりだす。
残り300m。
徐々に進出して、現在は4番手にのし上がる。
逃げ切りを図っていた逃げ馬はガソリン切れが間際なのか、ズルズルと後退してきている。
サイクロンウェーブは1枠1番――つまり、前から下がってくる逃げ馬を交わそうとするが横にいる馬が出させない。
結局、外から交わした馬が勝利したがサイクロンウェーブは外に出られたのがワンテンポ遅く、4着に敗れてしまった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。