ダービートライアルのプリンシバルSの結果はサイクロンウェーヴが6着アストラルが5着になった。

     この結果で一番喜んだのがKanonファームの経営者、水瀬秋子ではなく娘の水瀬名雪の方が喜色満面になっている。

     ダービーへの出走権利を得た事ではなく、祐一が応援しているサイクロンウェーヴに勝利した事が嬉しいらしい。

     ふんふん、と名雪は鼻歌を歌いながら今にも踊りだしそうな様子になっており、祐一は悔しそうに奥歯を噛み締めていた。

     それくらい、明暗がはっきりとしているのでソファーに深く座っている秋名は火を付けた煙草を咥えながら楽しげに眺めている。

 

    「……でも、5着と6着だとあまり差が無いぞ」

 

     祐一が強気になって名雪を崩せる事と言ったらここしか無く、一か八かで名雪を黙らせようとする。

     だが、名雪は含み顔でフフッと笑いながら、祐一の言い分を打ち破ってしまう。

 

    「掲示板に乗った事と、賞金ではまったく違うよね? 祐一」

 

     嘲るような表情で、名雪は祐一を見下しつつ鼻で笑う。

     この瞬間に祐一の負けは決定してしまい、負けた本人は深く項垂れるのであった。

     その様子を見て親の2人――秋子と秋名はそれぞれ、違った表情を見せる。

     秋名は大声で笑い、秋子は眉を顰めて名雪に向かって何かを言いたそうにジッと視線を合わせ続けた。

     名雪は秋子からの視線に気付かず、相変わらず祐一をからかっていた。

 

 

     暫くして、秋子は名雪と話すために家の外――放牧地の前に移動する。

     何故、あそこまで嘲るような言い方をしたのかを問い詰めるのが秋子の目的だろう。

 

    「名雪、言いたい事は分かっているわね?」
    「まぁ……祐一に向かって嘲るように言った事でしょ」

 

     腰に両手を当てたまま、名雪は背中から放牧地の真新しい柵に寄りかかり秋子の顔を見据える。

     名雪はトツトツと言い分を言い、秋子は目を瞑ったまま頷いて聞いている。

 

    「……と言う訳で、勝者と敗者の差だけだよ」

 

     それに、と何かを言いたげに開くが途中で口を一文字に紡ぐんでしまう。

     秋子は聞こうとするが、その前に名雪は家に戻って行く。

     暫く、秋子はその場に佇んだまま動く事が無かった。

     赤く染まった夕日が秋子の顔をオレンジ色に塗りつぶしていた。

 

 

     その日の夜。

     子供2人が寝付いた後、秋子は1人リビングで晩酒を飲むためにソファーに座る。

     そして、サイドボードの上に置かれている白熱電球が点灯するスタンドのスイッチを入れ、暗闇に一筋の光が灯らせる。

     ふぅ、と小さく艶かしく吐息を吐いて秋子はウィスキーのコルクを開ける。

     サイドボードの奥に締まっていた高級のウィスキーではなく、それなりの値段がする物。

     琥珀色の液体を並々と注ぎ、秋子は煽るようにグラスに口を付けてから飲む。

 

    「育て方……間違ったかしら?」

 

     一息吐いた後に秋子はもう一度、グラスを口に付けようとすると、ギシギシと廊下が軋む音がしたので一旦、口元から離す。

 

    「……姉さんですか」
    「珍しいな、秋子が1人で飲むなんて……まぁ、取り敢えず付き合ってやる」

 

     秋名はダイニングの横にある食器棚にグラスを取りに向かう。

     暫くして秋名が戻って来ると、手元には未開封のおつまみとアイスロックが入ったグラスを所持していた。

     秋子の対面に座ると早速と言うか、ウィスキーを注ぐ秋名。

     そして、おつまみの袋を開けてポリポリと口に運んでいく。

 

    「んで、何で飲んでいるんだ?」
    「……名雪の育て方を間違えたと思っていたんですよ」

 

     ふんふん、と秋名は相槌をしており秋子の愚痴を聞くだけで、言い終わるまで口を挟まない。

     暫く秋子の愚痴は続くのだが秋名はけして口を挟まないだけで、ウィスキーをゆっくりと口に付けて嫌な役目を引き受けている。

     口を挟むのは現在、興奮状態になっている秋子に呼ばれた時だけ。

 

    「……と言う訳なんですが、姉さんはどう思います?」
    「んー……ただ、早く大人になりたいだけだと思うが」

 

     思春期はまだ程遠い2人――名雪と祐一だが、牧場経営をしている秋子の手伝いをしている分、他人よりは成長が早いのかもしれない。

     祐一が身体面、名雪が特に精神面の成長が著しいと言えるだろう。

 

    「後は、多分……秋子のサポートが早くしたいんじゃないのか?」

 

     秋子は喉を潤すためにウィスキーに口を付けて、一瞬だけ目を瞑る。

     そうですね、と秋子は何かを思い出したのか、それだけの言葉を呟いてまた琥珀色の液体が入ったグラスを持ち上げる。

     秋名もスッと、秋子に合わせるようにグラスを掲げ上げて、カチンと合わせた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。