季節は春真っ盛り。

     青々とした牧草が辺り一面に茂り、繁殖牝馬は長く伸びている物からゆっくりと食んでいる。

     春の香――草葉の匂いが牧場に漂い、穏やかな気分をもたらしてくれている。

     さて、この時期になると何処の牧場も慌てだしく種牡馬養育牧場に行く段階を踏む時期。

     どこの牧場も繁殖牝馬の発情した事を確認してから、種付けのために仔馬を連れて行く。

     ただ、発情したからと言って留まる――受胎するとは限らないのだが。

     繁殖牝馬と種牡馬の血統が近すぎたりすると弊害を起こして、受胎しない事は当たり前。

     それを踏まえて、今年種付けする種牡馬と繁殖牝馬の組み合わせは以下の様に決定した。

     サクラユタカオー×ノーザンテースト牝馬。

     アンバーシャダイ×タケシバオー牝馬。

     後者のみが5代目まではアウトブリード――血統内に同じ血を持たない配合になっている。

     前者はネアルコのクロスを5×5とハイペリオンのクロスを4×5を持っており、父系と母系でもそれぞれクロスを持っている。

     それは母父のノーザンテーストが、ハイペリオン産駒のレディアンジェラが3×4で奇跡の血量になっているからである。

     そして、父サクラユタカオーもナスルーラのクロスを3×4で所持している。

     だからと言ってこの血統は濃いとは言えず、4×5と5×5のみなので、危険性は低いと言っても良い。

     閑話休題。

     サイクロンウェーヴが日本ダービーのトライアル、プリンシバルSに駒を進める事が確定する。

     青葉賞の手段もあったのだが、距離が2400mで更にG�兇噺世�事を考えると、抽選で除外される可能性もあった。

     それに比べるとプリンシバルSは距離2200mで、レース格はOPなのでメンバーは手薄と言える。

     だが、秋子としては見たくない組み合わせがこのレース――プリンシバルSで実現してしまった。

     アストラルも同レースに出走確定がしてしまい、しかも同枠になってしまった。

     秋子としてはこの様に同一レースに出走馬が2頭いるのは初めての事なので、どちらを応援すれば良いか迷っていた。

     名雪はあっさりと単純明快にアストラルと答え、祐一はサイクロンウェーヴと迷いながら応援すると言い切っていた。

     名雪がアストラルを選んだ理由は実に明確な事であり、自分が世話した馬の事を気に掛けるのは当然だと言いたげ。

     祐一は自分が名づけたと単純な理由がサイクロンウェーヴを応援する理由。

 

    「今日は応援する馬が別々だね」

 

     名雪はTVから視線を外さないまま、同じようなポーズをしている祐一に問う。

     祐一は言葉を口にせず、ん、と小さく頷いてTV画面から視線を逸らさないまま。

     2人の様子を見て、ククッと秋名は腹の底から思いっきり笑い始めて秋子を含めた3人は首を傾げる。

 

    「一丁前に勝負師の顔をしやがって」

 

     秋名はもう一度だけ笑って、ポンと祐一の頭に手を乗せてから思いっきり強弱を付けて撫でる。

     秋名の手から逃れようと祐一はもがくのだが、ガッチリと肩をホールドされており脱出は不可能だった。

     暫くこの母子のやり取りは続き、レース前になるまで続いていた事を記しておく。

 

 

     現時点ではアストラルが6番人気、サイクロンウェーヴは9番人気と両馬ともそれほど人気は無い。

     東京2200mと言う非根幹距離なので、中距離寄りかクラシックディスタンス寄りかの判断は難しい。

     ここで2着までに入着すれば、日本ダービーへの出走権利が得られるがそれ以下は門前払いみたく切り離される。

     因みに皐月賞が4着まで、青葉賞が3着までの馬にそれぞれ優先出走権利が与えられる。

     それ以外の手段は賞金が1600万以上を稼いでいる馬に限られるので、サイクロンウェーヴとアストラルは後が無い。

     そして数分後、ゲートインをしてスタートが切られる。

     16頭が日本ダービーの出走権を目指しているので、ゴチャゴチャしたレースが続く。

     サイクロンウェーヴは直線で包まれる事を恐れて、外に馬体を持ち出して5〜7番手をキープ。

     アストラルはいつもの様に後方から3番手辺りから先頭を窺っている。

     3コーナー直前まで、ずっと団子状態でレースが進み1頭の馬――サイクロンウェーヴがスローペースにイラついたのか動き出す。

     騎手は抑えようとするが行く気の方が勝っており、手綱を引っ張り上げても止まらない。

     騎手は崩れかけの道を突き進む事を選択する。

     4コーナー。

     アストラルも徐々に外から進出して、現在は10番手辺りに位置する。

     直線。

     サイクロンウェーヴは既に先頭に立ち、東京競馬場の長い直線に挑む所。

     逆にアストラルは中団に位置をした後に一度、脚を溜めている事が窺えている。

     残り200m。

     サイクロンウェーヴはズルズルと行き脚が鈍ってきており、2番手以降の馬に追いつかれ4番手になってしまう。

     東京の坂を駆け抜けた時点でアストラルは、5番手になったが勢いが途切れたのかそこまで。

     結局、サイクロンウェーヴ6着、アストラル5着と共に日本ダービーの出走権利は得られなかった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ハイペリオン……イギリスが生産した名種牡馬でもり、名競走馬でもあった。
     注2:ネアルコ……イタリアの歴史的名馬で、14戦14勝の無敗馬である。
     注3:ナスルーラー……成績こそ平凡だが、種牡馬としては大成功。
     注4:レディアンジェラ……ハイペリオン産駒の牝馬であり、二アーティックを生み出している。