シトシトと雪が降る中、新たな1年を迎える。
Kanonファーム周辺は純白の雪で染まっており、積もっていない場所を探す方が大変。
未だに雪は降り止まず、牧場にとっては降雪量を増やされるのは堪った物では無い。
放牧が出来なくなり、馬運動量が減ってしまうのだから。
日高地区は基本的に内陸部気候に属しているので、1m前後の降雪だが今年の冬はそれを軽く上回る状態。
さて秋子と名雪、祐一は初日の出を見るために近くにある寺に向かい、唯一秋名だけが行く気が無かったようだ。
本人曰く、気分が変わるだけで成績に結び付く訳でも無い、らしい。
そう言う訳で、秋名は1人で家に残り雪掻きを行っているが量が量なだけに秋子達が帰宅するまでに終わる訳は無い。
場所は変わって、Kanonファーム付近にある参道。
ここもやはりと言うか真っ白に染まっており、石段部分だけは危険が無いように雪掻きが済んでいる。
順番に石段を上っていくが、初日の出を見るためと参杯客が多くいるのでチマチマとしか進んでいかない。
この先にある寺は牧場関係の人物が多く参りに来る理由があり、それは分かりやすく勝負運が良くなるから。
それと、亡くなった馬を祭る祭壇もあるのも一番の要因であった。
数10分後。
ようやく3人は寺の前に辿り着き、お賽銭にお金を投げ入れるために秋子は自分の分と名雪と祐一の分を財布から取り出す。
落とさないように、と2人に注意してから秋子はそれぞれ5円を渡す。
2人はキチンとお礼を言い、別の列に並ぼうとするのだが混雑しているのであきらめたのか、秋子の真横にくっ付く。
サクサク、と雪を踏みしめながら1歩1歩、この日のために置かれている大型の賽銭箱に近づいていく。
その間に秋子は牧場関係の知り合いに声を掛けられて挨拶を済ましながら、少しずつ進んでいく。
名雪は自分の前方に見知った後姿を見つけたので、こっそりと近づいてから手袋に覆われた手で相手の視界を見えなくする。
キャッ、とその人物は可愛らしい声を上げて、髪が乱れるのを構わず頭を振り名雪の手を振りほどこうとする。
「あははっ……香里、驚きすぎだよ」
名雪は香里の視界を覆っていた手を解き、笑い過ぎたので息を整える。
逆に香里は腕を組みながら、口を尖らして恥ずかしそうにそっぽ向いている。
「う、うるさいわね」
ふと、名雪は視線を香里の足元に移すと、1人の女の子が名雪から隠れる様に香里の足にしがみ付いていた。
ニットで編みこまれた帽子を被りショートカットの髪が見え隠れしており、大きな瞳は名雪を見て脅えの色が浮かんでいる。
「……この子、誰?」
「あたしの妹よ」
ふーん、と名雪は見定めするようにジッと見ており、そのたび香里の妹は隠れてしまう。
名前は? と名雪が聞くと香里は妹の身体を軽く押して名雪の前に出させる。
恥ずかしいのか、口ごもってなかなか名前を言えない香里の妹。
「み……みさか、しおり3歳です」
「しおりちゃん、よろしくね」
名雪は自分の名前を教えながら、スッと手を差し出して栞の小さい手を握って握手する。
こうしているうちに、賽銭箱の前に辿り着き名雪は秋子に渡された5円投げ入れ、鈴緒を鳴らす。
香里だけは栞を抱っこしてから、栞に5円を2枚渡して投げさせて鈴緒も同じように栞にやらせる。
「ん、香里はもう帰るの?」
「ええ、親が先に終わっているから待ち合わせの場所に行かないとね」
じゃあね、と手を振って見送る名雪。
栞は一瞬だけ名雪の方を向いて、笑顔で軽く手を振っていた。
名雪は2人を見送ると、寺の裏手にある基本的に地元の人物しか知らない場所に向かう。
表よりは人の数は少ないが、それでも多数の人物が初日の出を見るために場所を陣取っている。
名雪は秋子と祐一を見つけると声を掛けて歩きながら近寄って、秋子が座っている少しばかり雪で湿っているベンチに腰を掛ける。
「後、どれくらい?」
秋子は時計に目を向けると発光塗料がボンヤリと瞬いており、時刻は6時50分。
もうそろそろよ、と秋子が言おうとしなくても名雪と祐一は空を眺めていた。
暗闇に覆われていた空が少しずつゆっくりと白みを帯び、白銀の世界が太陽光を反射して輝きだす。
太陽は海の向こう側から形を現し、徐々に空と雲が赤みを帯びて神秘的シーン演出する。
そして2人は感嘆を上げ、秋子も恥じらいも無く子どもの様な表情で初日の出を観賞していた。
戻る ← →
この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。