――競馬新時代を告げる時が来た。
来年の牡馬クラシックに向けての、楽しみな馬が多数いるのだから。
まずは朝日杯フューチュリティSの勝ち馬サッカーボーイが華やかな金色に輝くタテガミをなびかせながら、圧勝劇を見せ付ける。
2着には4戦3勝2着1回――連対率100%のサクラチヨノオーが食い込んだ。
サッカーボーイとの差は4馬身とかなりの差があったが、それでもクラシック候補の一角と言われている。
笠松所属のオグリキャップが来年から中央移籍をするなどと言う、信憑性が高い噂もトラックマンの間で流れている。
ダート戦のみで11戦9勝と破格の成績だが、一番の懸念は芝がどうかと言う事だけ。
逆に牝馬クラシックに向けての活躍馬は、現時点ではこれといった馬がいない。
阪神ジュべナイルフィリーズの勝ち馬シノクロスが一応暫定トップと言った感じである。
今年の牡馬クラシックはサクラスターオーで始まり、サクラスターオーで終わったと言っても良いほど過言では無い。
皐月賞の後に骨折発生して直接、菊花賞に向かってアナウンサーに
「菊の季節に桜が満開!!」
と言わしめた程の強さを発揮したのだが、有馬記念ではその時の末脚を見せる前に故障を発生してしまった。
現在は静養中なので、復活を願うばかりである。
日本ダービー馬のメリーナイスは、有馬記念でスタート直後に騎手が落馬してしまっている。
そして、2年連続牝馬3冠を期待されたマックスビューティーだが、秋華賞でタレンティドガールに敗れてしまった。
因みにタレンティドガールの半兄はニッポーテイオーなので、血が開花したとも言える。
エリザベス女王杯はこの2頭の争いとなり、首差でマックスビューティーが変則3冠を成し遂げたとも言える。
万馬券を演出した有馬記念の勝ち馬はメジロデュレン――去年の菊花賞馬が10番人気だったので奮闘して勝ったとも言えるだろう。
天皇賞・秋はニッポーテイオーが圧倒的な走りでGⅠ2勝目を上げ、その勢いでマイルチャンピオンシップも実力を見せ付けた。
ただ、ジャパンカップに関してはまだまだ外国馬が強く、2:24.9のレコードタイムを出されてしまった。
が、先を見据えそうな事も見受けられ、それは3着に日本馬が入着した事であり、それだけでは誰も驚かないだろう。
それは一番人気のトリプティクを抑えて、ダイナアクトレスが日本馬史上初の牝馬で入着。
そしてジャパンカップダートでは去年と同じように、アメリカ馬――ジャッジアンジェルーチが地力の違いを見せ付ける。
これが下半期に行われたGⅠの結果だが圧勝劇が見られた反面、レース中の故障が痛ましい。
例え、血統が良い馬が数年後に多数生まれても、ガラスの脚は一生変わらないだろう。
と、各競走馬が首に優勝レイを掛けれた表彰シーンの写真と共に記者のコメントが書かれていた。
秋子は今年一年の結果が悪かった事から、サーフボードに仕舞われていたウイスキーを厄払いのため取り出す。
少しばかりラベルが茶色く変色しており、年代物だと分かる。
秋名と秋子の父が遺したウイスキーだが、重賞を勝つまで開けるつもりは無かったのかそのまま仕舞われていた。
秋子はコルク抜きで、キュッキュと音を立てながら開けていくと濃厚なウイスキーの匂いが鼻腔をくすぐる。
ウイスキーロック入れたグラスにトクトクと音を立てて注ぎ、僅かに赤みを帯びた黄金の液体がユラユラと揺れる。
2人は何も言わずにグラスを合わせて、ゆっくりと飲み始める。
「さて、来年はどうします?」
秋子は頬がほんのりと赤くなり、飲みかけのグラスを持ったまま秋名に質問する。
既に秋名は新しく注ぎなおしており、2杯目を楽しんでいるので秋子の声が聞こえ難かったらしく、返答が僅かに遅れる。
「んー、夜間放牧してみたらどうだ」
夜間放牧は、言葉通り深夜でも放牧を行う方法でありサラブレットは一般的に4時間程度しか睡眠をとらない。
熟睡する事は1時間くらいで、残りは浅く短い感覚で断続的に眠りつく。
馬が野生動物だった頃の名残であり、この事を利用して深夜も放牧に出すと言う事である。
「するなら、放牧地を馬房まで広げないと駄目ですね」
秋子は顎に手を添えて考えるが諸経費の事が浮かんでしまい、なかなかゴーサインを出せない。
結局この話は平行線を辿り、今の所はお金の事を考えてしまうので後回しになった。
その後、2人はウイスキーを1本開けてしまい飲み終わった頃には部屋に戻る気力が無かったのか、ソファーで夜を明ける事になった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:サクラチヨノオー……実際はこちらが朝日杯の勝ち馬であり、父マルゼンスキーである。
注2:オグリキャップ……笠松が生み出した名馬であり、アイドルホース。
注3:シノクロス……実際は京王杯2歳Sくらいが主な勝ち鞍である。
注4:タレンティドガール……ニッポテイオーの半妹で、父はブランドフォード系のリマンド。
注5:トリプティク……鉄の女と言われるほど、出走回数は多く41戦14勝もあげている。
注6:ジャッジアンジェルーチ……格の高いGⅠは勝っていないが、ブリーダズカップクラシック3着などがある。