雪解けが少しずつ始まっており、春が近づいているのが実感出来る時期。
トレーニングセンターも牧場も、自分達が世話をした馬がクラシック路線に乗ってくれるのかが楽しみの時期とも言える。
さて、まずは皐月賞トライアル――弥生賞を見てみると、勝ったのはサクラスターオー。
この馬の母馬はサクラスターオーを産んだ２ヶ月後に腸捻転で亡くなっており、いわゆる人の手で育ったサラブレット。
２歳戦は初戦が２着で折り返しの２戦目で勝利を上げて２戦１勝となったが、脚部不安で４ヶ月の放牧。
復帰戦の寒梅賞では大手牧場のエース、マティリアルが勝利をしており、サクラスターオーは５着が精一杯だった。
格上挑戦で出走をした弥生賞は、鋭い切れ味を見せ付けて追い縋る馬を抑えきって勝利。
もう一つの皐月賞トライアル――スプリングＳはなんと言ってもマティリアルの切れ味に感嘆。
主戦騎手には“ミスターシービーしちゃった”と言わせてしまうほど。
父パーソロン、母父スピードシンボリの配合はあの７冠馬シンボリルドルフと同配合なのだから、Ｇ�気裡韻弔肋，討修Δ澄�
どっちの馬が皐月賞を勝つかと聞かれたら、７：３でマティリアルと言えるくらい切れ味は素晴らしい。
他にも朝日杯フューチュリＳの勝ち馬メリーナイス、京王杯２歳Ｓの勝ち馬ホクトヘリオスなどが１冠目を狙っている。
最後に桜花賞トライアルのチューリップ賞の方だが、これは格が違うと思わせる馬が誕生。
その馬の名はマックスビューティー。
紅梅賞、バイオレットＳ、チューリップ賞と芝、ダート、芝と異なる馬場を挟んでの３連勝は強い。
着差はそれぞれ２、５、２馬身と３歳牝馬としては十分な強さだと分かるが、１月から月１出走とは言え疲れは残るだろう。
特にこの事は牝馬だと考えると、これ以上の伸びはあるか当日の桜花賞でチェックが不可欠。
トライアル結果が載った雑誌には皐月賞と桜花賞の各記者が決めた予想が書かれていた。
Kanonファームではそろそろ仔馬が出産される頃であり毎夜、厩舎に秋子と秋名は交代で寝泊りしていた。
仔馬が生まれる事が多い時間は夜なので、見張っていないと逆子や流産の可能性もある。
なので、連日交代で見張っていないとならないので、２人の体調は著しく落ち込んでいると言える。
「まだ、産まれないのか」
牧場作業をしつつ秋名は放牧されている母馬の方を見るが、まったく意にしない様子で牧草を食んでいる。
今日は秋子が見張りをしていたので、現在はぐっすりと夢の中であり、秋名が牧場業務をこなしていた。
Kanonファームは中小牧場とは言え、牧場の広さは１人で行えないほどの面積がある。
さらに、厩舎があるのでかなりの広さを有している。
その牧場を１人で業務を行うのには流石に広すぎて、秋名は休みながらもこなしていった。
「ふぅ……人手が欲しいぞ」
こうなると秋名はボヤキながら業務を行うのだが、諭す人物がいないので溜まっている鬱憤は晴らすべくぼやく。
「私と秋子、祐一と名雪ちゃんの４人だけだとやはり厳しい」
猫の手でも借りたい、と呟きながら秋名は手を動かして厩舎掃除を進めていった。
その頃、秋子はようやく眼を覚ましてゆっくりと身体を起こしつつリビングに向かう前に三面鏡を覗き込んで手櫛で髪を整える。
三つ編みをしようとするが、ふと手を止めて編みこまないで鏡の前に置いてあるヘアピンでまとめて階下に向かう。
「姉さんは……厩舎ですね」
秋子は壁に掛かっているシンプルな時計を見て、現在の時間――１４：０５から考えて秋名が厩舎にいる事を導き出す。
自分の椅子に掛かっている青いデニム生地のジャンパーを羽織り、厩舎に向かう。
「様子はどうですか？ 姉さん」
「遅いお目覚めだな……まだまだって感じだな」
やれやれと、厩舎の窓から放牧地にいる母馬を見ながら肩を竦める秋名。
駆け回る事はしていないこそ相変わらず牧草を食んでおり、そろそろ産まれても良い頃だと思われる。
そして、秋名は視線を母馬から秋子に移して今年は何を付けるんだ？ と聞く。
「今年は海外輸入種牡馬が多いので、まだ決まっていませんよ」
秋子は質問を答えると、厩舎掃除を行うべく道具を持って行動を開始し始めた。
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この話で出た簡潔競馬用語
注１：サクラスターオー……父サクラショウリの代表産駒であり、２冠馬。
注２：マックスビューティ……ブレイヴェストローマンの産駒でもっともＧ�気鮠，辰震毒蓮�
注３：ホクトヘリオス……勝ち鞍は少ないが、旧年齢で７歳まで走り続けた無事是名馬。
注４：マティリアル……切れ味が素晴らしい馬だったが、あるレースの勝利後に死亡。