ジェットボーイが本日――1月28日の橿原ステークスに出走。
だが、前日に降った雪のおかげでダートの路面はぐちゃぐちゃの不良馬場。
この雪のせいで芝のレースは全て、ダートになったのだが今日のジェットボーイは元からダート戦の予定だった。
まるで有明海のムツゴロウがいそうな程の干潟――ダートとなっており、これだとダートの不得意は関係無い状態。
さらに、内枠外枠も関係なく、如何に泥水を被らないで気持ち良く走れるかが一番の重点。
馬は泥を被ったりすると極端に走る気が無くなる馬が多数いるので、馬の真後ろに着けないで僅かずらした位置取りをするのが正しい。
この事に関しては騎手の腕を信じるしかないのだが、ジェットボーイの騎手は他レースで上手く乗っていた。
ただ、ジェットボーイの枠は1枠2番と最内ではないが、逃げ遅れた事を考えると不味い枠。
前走が出遅れた事もあり、秋子が心配するのは必然的な事だろう。
「逃げ馬がジェットボーイを除いて2頭ですか……」
この馬場でハイペースになるのは厳しいものなので、共倒れにならない事を願うばかり。
単騎で逃げられれば、勝ち目はあるのだがジェットボーイを除いて2頭いる事は厳しい。
大逃げか競り合って逃げるかの二者一択。
どちらもこの馬場状態では低いと言えるが、大逃げの方がまだ僅かに勝算は高い。
東京競馬場だと長い直線が仇になる可能性があったが、ここは京都競馬場だ。
ダートコースに限っては中山競馬場より直線は21m長いが、直線半ばには心臓破りの坂は無い。
因みに現在の人気は15頭中12番人気と、初ダートに加えて連闘と遠征の部分が人気の無い要素である。
人気が無い利点もあり、ノーマークで逃げやすいと言うのが良い事だろう。
「逃げられると良いな」
馬券で勝負しているからな、と秋名は付け加えてから馬券をひらひら、と指先に挟んで弄ぶ。
ジェットボーイの単勝が500円だけ買われており、購入金額と馬名がプリントされていた。
「姉さんは当たりを望んでいる方が強いでしょう?」
ん、秋名は小さく頷いて秋子が言う事を同意している。
1着になったらどれくらいになるの? と祐一が気になったのか質問をしてきた。
「現時点のオッズが100倍くらいだから、来たら5万ほどだな」
簡単に来るとは思っていないが、と余計な一言付け加え、秋子をちょっとだけ怒らせてしまった。
そして、レース開始5分前と発走時間が近づいてきた。
馬場入場の際、ジェットボーイはダートに脚を取られる事は無く上手く走っていたがレースになるとどうなるか分からない。
ジョッキーは黒のゴーグルを何枚も重ねており、逃げ遅れたことも配慮している。
一流のジョッキーは逃げ馬に乗る時、ゴーグルを一枚しか着けない理由は逃げに絶対の自信があるからである。
ジェットボーイの主戦――佐山騎手は、その点を踏まえたらまだまだ2流と言える。
ライバルの逃げ馬には一流騎手が乗っているので、佐山騎手が尻込みをせずに逃げなくてはならない。
発走時間。
奇数番号――1からゲートインするが、ちょっとだけ他馬がゲート前で尻っぱねをしてからゆっくりと入る。
その馬がゲートインするのが遅れた以外は、どの馬も直ぐに入ってレース体勢が整っていく。
そして、スタート。
ジェットボーイはスッとスタートを切れたが、一番人気の逃げ馬は更に上手いスタートを見せ付ける。
出遅れた訳ではないが、ここまで差があると必然的にジェットボーイは2番手からのレースになる。
「馬の実力は同じでも、一流ジョッキーとの差は厳しいですね」
結果はまだ出ていないのだが、秋子はポツリと本音を洩らしてしまう。
そんな事を秋子が考えている間にジェットボーイは3コーナーに突入。
ちょろちょろと一番人気の逃げ馬との差は縮まってきており、下り坂で抑えて行けば十分に勝算は出てきた。
だが、一流ジョッキーは何と急な下り坂の勢いを利用して差を更に広げる。
半馬身、1馬身、2馬身とちょっとずつ差がついてきており、後方の騎手は迷っているようで差を詰めようとしない。
そして4コーナーを回り、先頭との差は広がると思われたが、ジェットボーイが食らいつくように脚を伸ばしてきている。
既に勝負服は泥だらけになっており、元の模様が分からないほど真っ黒。
それはもう既にどうでも良い事柄であり、勝負の決着の方が先。
流石に一番人気の馬も下り坂で加速をしたので、行き脚が少しずつ鈍っておりジェットボーイの方が勢いは勝っている。
だが、後方からも他馬が追い込んできており、このまま決着はつかない。
残り100m。
残り50m。
遂に一番人気の馬に首差まで追い詰めるがそこまでだった。
外から追い込み馬が突っ込んできており、僅かに交わされて3着に破れてしまった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。