サンライズSで惨敗を喫してしまったジェットボーイだが、なんと連闘で
京都に出走する事が診断された。
息遣いも悪くなく、至っても問題が無いと伝えられた秋子だが、流石に直ぐ了承出来る訳ではなく一日の猶予を貰った。
しかもダート戦に出走されると言うのが秋子を躊躇わせる一因であり、別に連闘が問題と言う訳では無い。
7ヶ月の休み明けでまったく、本気で走っていないように伺えたのでそういう時は連闘ぐらいありだと思っている。
良いレースをしてくれたら、もうちょっと休ませてから次に出走させる事が庇えるのだが今回は流石に無理だった。
力を出し切っていない状態での惨敗の庇い立てはしようが無く、この結果で
休養させたら休み癖が出来てしまう危惧もある。
なので、秋子は連闘に関しての事に対して文句は言わない。
出走レースは京都ダート1400m橿原ステークス。
関東から関西まで輸送して体重は減るだろうが、レース意欲を取り戻させる方が先決である。
「……どうしようかしら」
ダート戦に出す事をかなり迷っており、同じ事を何度も繰り返して呟いている。
血統的にはダートは得意でもなく苦手でもなく、普通くらいだと秋子は思っている。
テーブルの上に置かれているホットコーヒーは既に冷め切っており、湯気は立っていない。
コーヒーカップに一口つけて、心を落ち着かせようとするが冷めているので秋子は顔をしかめる。
「淹れ直しますか……姉さんも飲みます?」
丁度、牧場業務が終わったのか頭に雪を積もった雪を払い落としながら、秋名がリビングに現れたので秋子は一応聞いてみる。
「熱々で頼む」
そう言ってから秋名はタオルを取りに洗面所に向かって行った。
名雪と祐一の分として、ホットレモンを出しておく事を忘れないようにしておく。
名雪と祐一はそれぞれ、自分の席に座ってからテーブルの上に置かれている
ホットレモンが淹れてあるカップに口を付ける。
ゆらゆらと揺れる湯気をジッと見ながら、名雪は吐息で熱すぎるホットレモンを冷ましている。
そして、カップに口を付けながら上目使いで大人2人の会話に耳を傾けて、話を聞く。
一息を付いてから、秋名は秋子の対面に座ってから愛用の煙草に火を付ける。
「まだ、決まっていないのか?」
ええ、と秋子は神妙な顔で頷いており、秋名は何かを言いたげに頭を左右に
ゆっくりと振っていた。
「やってみないで考えるのか?」
随分と保守的になったな、と秋名は冷淡な口調で暴言を吐くが、秋子の事を想っている事が分かる。
秋名は何故か自信タップリそうに言っており、その自信が何処から出ているのかは分からないが、秋子を支えているのは確か。
しばらく、秋名に言われた事をじっくりと考える秋子だが、どう考えても秋名の言う事の方が説得力はあった。
「そう……ですね」
秋子は頭を上げて、しっかりとした表情で頷きつつ受話器を取り久瀬調教師に電話を掛ける。
秋子の表情を見て、秋名は満足そうに頷きながらコーヒーカップに口を付ける。
「もしもし、水瀬ですが……ジェットボーイの件に関しては了承します」
秋子の表情は実にスッキリとして、先程のように悩んでいる時に見せた顔にはなっていなかった。
出走が決まったので体調などをもう一度キチンと聞く。
馬体重は現時点で前走比−8kgとそれなりにしか減っておらず、輸送する前なので少しでも体重を戻すのが先決。
輸送をすると10kgは減るので、前日輸送で負担を減らす方針と決まった。
「レースの後は……一日だけ出張馬房に置いてから戻すんですね?」
秋子が問うと、電話越しだが久瀬調教師は肯定をしたようだ。
その後は放牧しないで厩舎に置いておく事を決めて、これで全ての話し合いが決定する。
こうしてジェットボーイは初のダート戦に出走することが確定したが、秋子の本心は未だに不安と期待が渦巻いていた。
「まぁ、期待して見ていた方が良いぞ」
「そうだよ。楽しみにしておかないと」
祐一も頷いており、秋子以外の3人は楽しみの方が勝っており、その様子を見て秋子は深い溜息を吐いた。
「お気楽で良いですね、3人は」
秋子は皮肉タップリの嫌味を言うが、3人には馬の耳に念仏であった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。