サンライズS。
1月23日土曜日に行われる11レースに行われ、ジェットボーイにとっては初めてのメインレース。
秋子にとっては地方馬が東海Sに出走のために遠征して、4着なった以来の中央メインレースだった。
重賞ではなく、ただの1600万下だが。
ハンデ戦だが、ジェットボーイは前走こそ勝ったもの、6ヶ月振りという事もあり55kgとなった。
前走から1kgの増量だが、トップハンデは57kgなのであまり気にならない斤量。
問題は中山競馬場と休み明けの事くらいであり、今回は4枠5番となった。
つまり内枠なので、大外を走ると言うハンデは無くなっている。
休養明けが嫌われたのが、直ぐに分かるほど人気が無く12頭中7番人気。
前走が勝っている分、この程度で収まった感じも見受けられる。
「人気はこれくらいが妥当ですね」
「もうちょっと、あった方が良いと思うが」
秋名はチョットばかり眉間にしわを寄せつつ、TV画面を眺めていた。
少しばかり、ジェットボーイは入れ込んでおり休み明けとしては落ち着いている方である。
体重は前走比―4kgなので、調教によってキチンと馬体は引き締まっている。
少しばかり馬体の幅が増加しているのがTV画面を通してなので、分かり難いのだが解説者の説明で秋子はホッとする。
プラス体重だと少し厳しいので、これくらい減量してある方が良い。
「お母さん、あそこにジェットボーイの名が無い?」
名雪がTVに指を指した時には画面が切り替わってしまい見えなくなるが、別の馬が映った時にもう一度流れる。
良くパドックを見ると、外周部分にある柵にジェットボーイの横断幕が1つ張られていた。
サイズはあまり大きくないので、気付きにくいのが難点だったがファンが居る事を認識したと言える。
「ファンが居るのはありがたいですね」
「短距離の逃亡者か……言い得ているな」
大逃げはしないこそ、ケレンミのある逃げが人気の元のようだ。
今日もその逃げ足を見せ付けられるかと言うと厳しいだろう。
休み明けと言う1つの不利条件があるのだから。
馬場入場時は首を上下に激しく振り、ちょっとの間に入れ込んだようである。
秋子は不愉快そうに眉間にしわを寄せて、怒り心頭な表情になっていた。
「落ち着け秋子」
「落ち着いていますよ。わたしは……でも急に入れ込むとは」
地下道を通っている時に何かがあったのは確かだが、今はそれを確認する術が無い。
レースになる前に落ち着いてくれるかは騎手の腕に懸かっているので、ここが大事である。
ゲートインの前になっても入れ込みは変わらず、激しくなっている訳でも収まっている訳でもない。
激しくなっていない分マシなので、上手くスタートを切って欲しいと秋子は願っている。
そしてスタートが切られる。
ジェットボーイは少し立ち遅れたスタートを切り、後方からになってしまう。
最後方では無いので、入れ込み具合はより激しくなりジョッキーが手綱を引っ張り喧嘩になっている。
「ああっ、もう!!」
このままだと、まったく勝負にならないでレースは終わってしまう。
このまま抑えたまま直線に賭けるか、それともこの場所から先頭まで自由にさせるか二者択一しかない。
ジョッキーが選んだ選択は……控える事だった。
残り600m。
抑えたまま直線に入り、鞭を入れるジョッキーだが伸びない。
手綱を押しているがうんともすんとも言わずに、ずるずると後退していく。
結局、ゴールインした時の着順は10着とまったくふるわない結果であった。
1頭も交わせないままゴールしたので、秋子はテーブルにうつ伏せ状態で寄り掛かる。
「もう……最悪です」
がっかりと肩を落とした秋子は、それだけを呟いた後はTV画面に見向きもしない。
ジェットボーイの復帰戦は不本意な成績となってしまった。
暫くすると、電話が掛かってきたのだが秋子は取る気力も無く代わりに秋名が電話に出る。
秋名は面倒そうに、乱雑に切ってある髪を弄りながら久瀬調教師の弁解を聞いている。
「次走は近いうちですね?」
秋名は態度と裏腹に口調はキチンとなっており、その様子を見て名雪は口をポッカリと開けて秋名をジッと見ていた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。