ジェットボーイの5戦目が行われた。

     日付は6月18日日曜日。

     函館第9レース500万下芝1200mと得意の距離だったが、人気は11頭中5番人気。

     枠は4枠4番の青ヘルメット。

     夏のレースは古馬との対戦があるため、3歳馬の人気は薄くなることが多く、ジェットボーイも例外ではなかった。

     1番人気は前走僅差の2着に食い込んだ4歳馬であり、あまりジェットボーイとは差が無く感じた。

     特に乗り代わりの影響で人気が落ちたと言う事実も見受けられるが、単勝9倍辺りなので好意的に思われていたのだろう。

     因みに1番人気は単勝3倍と混戦模様となっていた。

     馬場入場する際にちょっと入れ込んでいたが、ゲートイン前には落ち着いていた。

     そして、発走。

     函館競馬場は向こう正面から4コーナーの半ばまで緩やかな上り坂になっており、直線は262mと一番小さい。

     なので、逃げ馬のジェットボーイにとっては圧倒的に向いているコース。

     それに雨が降ると外の差し馬が圧倒的に強いのが特徴だが、現在は曇り時々晴れなので小雨さえ降っていなかった。

     ジェットボーイは淡々と2番手に1馬身差を付けて余裕のポーズを見せ付けて、直線まで動かなかった。

     日本で一番短い直線で加速をするジェットボーイ。

     騎手の鞭に応えて1馬身、2馬身と少しずつ差を付けていく。

     そして、先頭でゴールを飾る。

     2着馬の着差は2.1/2と、久しぶりに勝った割には強い競馬を見せ付けた感じだった。

     タイムは1:11.52と平凡だが、秋子にとって現在は勝った方の喜びが強く出ている。

     そして、秋子は初めてウイナーズサークル――勝利者の場所に立つ事が許される権利を得た。

     重賞と違い、優勝カップが貰えるわけではないが。

     それでも秋子は感傷深くウイナーズサークルに立ち、久瀬調教師と担当厩務員とガッチリと握手をする。

 

 

     このウイナーズサークルに立った写真は額縁に収められて飾られる。

     重賞どころではなく、唯の500万下の写真だが意味があって飾っており、調子に乗らないようにと初心に帰れるように。

 

    「普通、500万下は飾らないよな」

 

     秋子は苦笑いを洩らして、自身とジェットボーイ、久瀬調教師、担当厩務員が一緒に映っている写真を見上げる。

 

    「次回は重賞馬の写真を飾りたいですね」

 

     そうだな、と秋名も同意しており2人の目標――Kanonファーム全体の目標に重賞馬を生み出す事を加えた。

     まだまだ先になるか、それともジェットボーイが勝ってしまうかは誰にも分からない。

     これが、競馬の醍醐味であり例え良血馬だって重賞未勝利終わる事があるし、血統が悪い馬でも運でGⅠを勝つ事がある。

 

    「ジェットボーイは次走も期待して良いと思いますか?」
    「連勝は厳しいと思うぞ」

 

     次走は1000万下とクラスアップしたので今回より相手はより強敵になり、特別レースしかない。

     普通のレースだと~万下と新馬、それに未勝利だが、特別レースとはその地域の名前があるレース。

     そのため出走馬のレベルは必然的に高くなり、登録数が増えて除外される事もままある。

     10月に行われる3歳未勝利戦の除外ラッシュより、マシな状況なのは確か。

     この未勝利戦で負けた馬の行き先は最低でも地方、最悪なのは家畜商に売られる事なのだから。

 

    「次走は道新スポーツ杯だよな?」
    「ええ、約1ヶ月後ですね……ハンデ戦ですから斤量が気になりますね」

 

     ハンデ戦とは馬齢や賞金は関係無く、最近のレース具合でハンデキャッパーが斤量を決める。

     そのため実力が拮抗しての接戦が多くなり、馬券的にもレース的にも面白いレースとも言える。

     万馬券が出やすいので秋子は姉が万馬券狙いで買うのは何となく分かったようだが、口には出さない。

     秋名は秋子が何かを言いたそうな表情でこっちを見ているが、首を傾げるだけ。

 

    「……? 重くならないと良いな」
    「せいぜい54kg辺りが妥当ですね」

 

     ジェットボーイは前走と3戦前のレースを勝っただけであり、着差もそれほど広げていない。

     最高ハンデは大体56kg、と出走馬が確定していない中で秋子は言い切って、軽量を願う。

     秋名は目を細めて、ジッと秋子の様子を見ていた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。