秋子が購入した2頭の1歳馬は直ぐに牧場を駆け巡る訳では無く、おどおどとしながら放牧地に入っていった。
牝馬の1歳馬だけは違う放牧地に連れて行き、牡馬は入り口で立ち竦んでいた。
初めての放牧地なので、最初からいるボス――1歳馬の存在が鼻を鳴らして威嚇をする。
まずは新参者の1歳馬から、ゆっくりと近づいていくが古参の牡馬が何度も鼻息を荒くして威嚇。
それでも、一歩ずつ近づいていく新参者。
すると古参の1歳馬も、自ら睨み合う直前まで近づいていき、ジッと相手の顔を見ている。
暫く膠着状態が続いていたがお互いに認め合ったのか、たてがみの付近を噛むようにグルーミングをする。
「これで認め合ったので平気ですね」
「そうなの?」
ふーん、と新たな事を知った名雪は感心そうに2頭の行動をジッと見ている。
名雪はこの特殊行動の名前をグルーミングと覚えてから、新たな疑問の事を思い出して秋子に聞く。
世話はどうするの? と一番名雪にとっては重要な事を秋子に聞く。
「1頭ずつだけど、どっちをやりたいかは祐一君と話し合った方が良いわよ」
放牧地を全速力で競争している2頭の1歳馬を見ながら、名雪は頷いた。
祐一と秋名は珍しく、一緒に行動をしている。
その理由は繁殖牝馬の種付けに行くからであった。
馬運車に2頭の牝馬を載せて、種牡馬が繁殖されている牧場に向かっている所である。
既に秋子が種付け種牡馬を予約に入れているので、後はサッと済ませておくだけで終わり。
祐一を連れてきた理由は、他の牧場の様子と仔馬が生まれるまでの過程を知って欲しいからであった。
祐一はその事を知らずに、後部座席からジッと繁殖牝馬を見ていた。
「あとどれ位で着くの?」
もう着くよ、とベテランの運転者がバックミラーを見ながら祐一の質問に答えた。
確かに視線を外に移すと、牧場まであと1kmと書かれた看板が見つかり、後ろに流れていく。
祐一は窓に張り付いて、ジッと看板が後ろに流れていく場面を見る。
周りの風景はKanonファームと変わりなく、どこまで走っても畑や牧場などが多い。
ポツポツ、と点在して民家が数軒あるだけで、建物自体が少ないのは日高地区と何も変わりが無い。
看板が見えなくなると、祐一はキチンと座り直す。
「着きましたよ。相沢さん」
腕を組みながら、車内で眠っていた秋名は運転者に起こされて、ゆっくりと眼を開けて小さく欠伸を洩らす。
すまん、と左手を上げつつ、ウインクするように右目を閉じて謝る秋名。
運転手は良くあることなのか、まるで気にしていない様子だった。
「じゃあ、ぱっぱと馬を降ろすか」
んー、と背伸びをしてから秋名は祐一を抱えて、馬運車から降りる。
2頭とも馬運車に慣れているのか落ち着いており、ゆっくりと1頭ずつお尻向きから降ろしていく。
「お待ちしていました。相沢さん」
「お願いします」
メンデスはタケシバオー牝馬、ハギノカムイオーがノーザンテースト牝馬にそれぞれ種付けを行う。
祐一は2頭の種牡馬を見て、感嘆を上げて近づいていく。
厩務員がそれぞれリードを持っているので、祐一がお尻の方に近づかなければまったく問題は無い。
秋名は馬のお尻に近づくなよ、と釘を刺しておくのを忘れないでおく。
分かっているよ、と祐一は人に曳かれて種付け場に向かう種牡馬を追いかけて行く。
牧場主任と秋名は顔を見合わせて笑いながら歩いていく。
種付け場は5�嵎佞蠅諒匹飽呂泙譴疹貊蠅任△蝓△修涼羶瓦砲郎瑤忙�た物がポツンと1つあるだけ。
ここに牝馬を繋いで種付けを行い、入れ込む牝馬には鼻ネジで動きを制限させる。
鼻ネジとは、1m近くの木製の棒に弛んだ紐が付いており、その紐で馬の鼻を縛る物である。
Kanonファームから来た牝馬は入れ込んでいないので、使う事は無いが。
「こういう場所で種付けするのか」
ふーん、と秋名は周りを見回して、少し離れた場所で種付けを見守る。
まずは牝馬の尻尾を一まとめにして種付けの邪魔にならないようにして、当て馬の出番。
牝馬は受け入れ態勢が整った時点で当て馬のお役はおしまいだが、裏方の仕事してはいなくてはならない存在。
祐一は真横から見ており、この事がどのように視線に映ったかは秋名には分からなかった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。