Kanonファームの一部がいつもと違う風景に変わった。

     それは繁殖牝馬に寄り合う2頭の仔馬がいる事が、新たな日常として目覚めた。

     まだ、放牧地には出せないので外見からは分からないが、慌てだしく秋子と秋名が厩舎を出入りしている。

     1人で2頭も見ることは厳しいので、1人1頭ずつ体調管理を行う。

     秋子がアーティアスの産駒を、秋名がスティールハート産駒をそれぞれ担当。

     因みにアーティアス産駒は牡馬、スティールハート産駒が牝馬である。

     牡馬は何の特徴も無い鹿毛であり、星一つも無く、右前脚下にポツンと白い 部分があるだけで面白げの無い馬体に見える。

     眼つきは穏やかと言っても良いほど、癒される眼。

     逆に牝馬は全体的に黒味がかかった赤褐色で、大流星が鼻のやや上まで伸びており、後左脚は僅かに外側に湾曲していた。

     そして、眼つきが牝馬とは思えないほど三白眼となっているので、見る人によっては牡馬と間違えられそうだ。

     2頭は毛色を除いて、まるで正反対に近い馬体。

     地味な鹿毛が均等な馬体、派手な黒鹿毛が後左脚に不安を持つ馬体となってしまった。

 

    「黒鹿毛は大丈夫でしょうか?」
    「とりあえず、今は様子見が必要だな」

 

     脚が曲がっているのは問題だが、競争中に骨折しそうなほど、酷く湾曲している訳でないのが幸いであった。

     牝馬が生まれたのは、高齢になる母馬の代わりにはなりそうなので助かった思いもあるのだろう。

 

    「さて、来月は種付けに連れて行かないとな」
    「今年は姉さんが連れて行ってみますか?」

 

     ん、と秋名は顎に手を添えて考えるが、断る理由が特に無いのか小さく頷く。

     祐一も連れて行くか、と言うがこの場には祐一は居ないので勝手に決定をしてしまう。

 

    「えっと……メンデスと何の予定だ?」

 

     繁殖されている牧場の地区が同じなら楽だが、違う地区だと別々に行く事になってしまう。

     まだ、決まっていませんが、と秋子は前置きをしつつハギノカムイオーと言う。

 

    「ああ、1億8500万の馬か」

 

     ポンと掌を叩き、秋名はハギノカムイオーの成績を思い出そうとするが、値段しか覚えていないと実感したようだ。

 

 

     ハギノカムイオーは姉に桜花賞馬のハギノトップレディがいる良血。

     母の祖となるマイリーは未勝利馬だが、その産駒キューピットは朝日CCを優勝。

     キューピットの娘――ヤマピットはオークス勝ち馬あった。

     さらに、ヤマピットの孫にはイットーと呼ばれる牝馬が高松宮記念を勝利していた。

     イットーの代表産駒としてハギノトップレディがおり、超が付く良血馬だと分かる。

     因みにイットーの兄弟にはニッポーキングがおり、昭和50年付近では珍しいマイルの活躍馬だった。

     叔父も活躍しており、活躍を期待されたハギノカムイオーだがG�気亙�塚記念と高松宮記念の2つ。

     逃げ馬だった事もあり、目標にされやすかった事とガンガンと飛ばすタイプだったのが特徴。

 

    「種付け料は150万はちょっと高額ですけどね」
    「血統にしたら安い方だろう?」

 

     そうですけどね、と秋子は複雑な表情で同意する。

     産駒がデビューするのは来年だが、出来が良いなどのコメントは風の便りにも乗ってこないのが気がかりだった。

     そのお陰で種付け料が200万から150万に下がったとも言えるので、ありがたいのは事実。

 

    「多分、ハギノカムイオーの予定は変わらないと思います」

 

     血統は良いし、中距離でのスピードタイプと見込める成績が秋子の心を傾けたのだろう。

     一度決めたので、馬体に異常などが出ない限りは変更する事は無い。

 

 

     その頃、阪神で行われていた桜花賞の優勝馬が決まった。

     優勝馬の競走名はメジロラモーヌと言った。

     この馬の生産牧場では珍しくクラシック時期からの活躍であり、今までの活躍馬は特に長距離馬が多い。

     勿論、桜花賞の勝利は初めての事であり、牝馬クラシック自体縁が今まで一回も無かった。

     オーナーは天皇賞に想いを強く持っており、そのため古き良き長距離馬が好みであった。

     時代に合わないと言えば、合わないかもしれないが頑丈で長持ちなので間違っているとは思えない。

     来週には皐月賞が行われるが、こちらも大手牧場の出走馬が多いと予想されていた。

     人気になりそうなのはダイナガリバーとダイナコスモス、それに弥生賞の勝ち馬ダイシンフブキ。

     ダイナガリバーはクラブ馬だが、ダービーに向けたローテーションでの出走なのでここは捨てレースと伝わっていた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ハギノカムイオー……当時最高額の1億8500万で売却されたが、実際はG�毅云’呂任△襦�
     注2:マイリー……3戦0勝馬で、馬名にはフランス語で役所の意味がある。
     注3:ハギノトップレディ……デビュー3戦目で桜花賞を勝った馬であり、スピードはかなりの物を持っていた。
     注4:キューピット……G�犠,舛海縮気い�、掲示板にを外したのは35戦して3回のみ。
     注5:ヤマピット……G�犠,舛魯�ークスのみだが、レコードを4つも更新した事があった。
     注6:イットー……この話ではG�犠,舛砲覆辰討い襪�、実際はG�汽譟璽垢錬韻弔盻仭�していない。
     注7:ニッポーキング……トウショウボーイの時代に活躍したマイラーだが、この時代では評価は低かった。
     注8:ダイナガリバー……社台ファーム初のダービー馬であり、クラブ馬なのはクラブ馬での活躍馬が少なかったからである。
     注9:ダイナコスモス……この年の皐月賞馬だが、福島のラジオたんぱ賞に 出走して優勝している。
     注10:クラブ馬……共同馬主で所持した馬の事であり、一般でも擬似的に近いが馬主になれる。