――ありえない事が起こった。
シンボリルドルフがアメリカのレース――サンルイレイSで大敗。
応援に来た日本人、日系人もあっけない表情でルドルフを見つめている。
誰もが、ここまで大敗するとは思えなかったのだろう。
本来なら、このレースは圧勝で凱旋門賞に向けて乗り込むためになるはずだった。
ズルズルと直線に入ると、下がっていく時は絶叫がサンタにア競馬場に響いた。
叫んでいたのは日本人、日系人だけではなく馬券で勝負したと思われる白人と黒人もいた。
実力がある馬でも負けることはあるが、これだけ離された負け方はシンボリルドルフには珍しい。
負けたレースは3歳時のJC、4歳時の凱旋門賞、天皇賞・秋があるがどれも大崩はしていない。
掲示板を外したのは、生涯でこれが初めての事であった。
それがこの敗戦で凱旋門賞へは厳しくなり、引退の可能性も出てくる。
だが、レース後にルドルフが泣いている写真が撮れたのだが、これを見るとサイボークとは思えない。
例え、レース中に芝を被って流した涙だとしても、この涙は敗者が流した物として残るだろう。
この文章が書かれた新聞には、シンボリルドルフが涙を流している写真が大きくカラーで印刷されていた。
この敗戦後にレース中に故障を発生していた事が発覚したので、引退となってしまった。
そのためシンジケートの申し込みは即日完売で、一口2000万の株が50株――合計10億円。
こんな高い1口株はKanonファームでは勿論、中小牧場では手が出せない代物。
それでもこんな高価なのを買うのは一発逆転を考えている中小牧場だろう。
余勢株なら1口は安いが、その年に一回だけしか種付けできないデメリットがある。
秋子はシンボリルドルフの血統を見るが、今一つ何かが気に入らないらしく、繁殖牝馬の血統と見比べている。
「ルドルフの父パーソロンが気になりますね」
パーソロン産駒は総じて気性が悪いのが多く、ルドルフもパーソロンに似ているなら気性が悪い仔馬を出しそうな危惧がある。
「なら、メンデスはどうだ?」
今年輸入されたばかりの種牡馬を言う秋名。
秋子は言われた通り、メンデスの血統を調べるためにペラペラと今年発刊された種牡馬リストのページを捲る。
「えっと……ベリファ産駒で母父カロですね」
そうなると、と秋子は呟いてから血統を構築するために、要らないチラシを取り出して簡潔に血統表を作る。
父ノーザンテースト母父アローエクスプレスではノーザンダンサーの4×3のクロスが発生。
父タケシバオー母父シンザンだと、完全なアウトブリード配合。
どっちにしても影響は無いとも言えるくらい薄いだろう。
「新種牡馬にするのかは任すが、そろそろ考えないとな」
配合を考えるのは楽しいのだが、外れが多いとKanonファームの評判がなくなってしまう。
「種付けの事もそうですが、そろそろ重賞馬を出したいところです」
「まだ引き継いで2年だぞ?」
秋子は牧場を引き継いでから2年しか経っていないので、早計だと思えるが毎日同じ事を繰り返していると時が過ぎるのは早い。
やれやれ、と秋名はテーブルに肘を乗せつつ、呆れた表情で秋子を見上げる。
国内の重賞は100以上あり、地方も含めると120近くはあるので、秋子は勝てると思っている。
秋名は逆にこんな簡単に勝てるとは思っていないらしく、秋子の考えをぴしゃりと否定してしまう。
「狙っている馬主は多数いるんだから、焦っても意味無いぞ」
正論を言われると、秋子はうッと詰まり反論が出来なくなる。
基礎がしっかりすれば取れるだろう、と秋名はフォローを出すが秋子の元に届いたかは分からなかった。
2人は思いのまま行動をしていたが、秋名は新聞から視線を外して何かを思い出したよう話題を振る。
「出産日は何時ごろだ?」
秋名が聞いているのは仔馬の事なので、この時期になると出産が近づくのが実感できる。
「1週間後辺りには生まれるみたいです」
「今年は2頭生まれると良いな」
去年はタケシバオーの牝馬から生まれる予定だったスティールハートの産駒が死産したので今年こそは、の思いがある。
「そうですね」
秋子は力強く頷いて、しっかりと前を見据えた。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:メンデス……G�気錬云’呂任△蝓�地方の活躍馬が多数いる。
注2:ベリファ……自身はG�犠,舛鰐気い海宗⊆鏖看呂箸靴藤猫犠,舛稜呂鮟个靴討い襦�
注3:カロ……フランスで活躍した馬であり、産駒にはケンタッキーダービー馬がいる。