ジェットボーイの3戦目が行われた。
この日は最悪と言える結果であり、15頭中6着となってしまった。
一番外の枠になってしまい、大外を振り回されて内に行けなかったのが原因
と分かる。
中山競馬場は小回りに近く、最後の4コーナーはキツイ角度なので外枠の馬は厳しい。
それと、やや出遅れ気味のスタートで逃げられなかったのも原因だった。
まして1200mの短距離戦での出遅れは致命的。
つまり、不幸が重なっての敗退なので言い訳は出来るが、次走こそが執念場となる。
「こうなると厳しいな」
うー、と珍しく唸っている秋子に語りかけるように言うが秋子はショックが大きいのか反応は無い。
秋子の隣に座っていた名雪は慰めるようにポンと秋子の肩を叩いていたが、逆に落ち込ませる要因になった。
名雪はそれだけをすると、自分より少しだけ高い椅子から降りて、外に向かっていった。
秋名は肩を竦めてから、秋子を無視して次のレースを見始める。
この日は特に重賞は無いが、ジャンプレースが京都で行われるので取り合えずは観戦を徹する。
ジャンプレースの醍醐味は騎手が馬との呼吸を合わせないと落馬する事が多く、迫力は平地レースではとても及ばない。
Kanonファーム生産馬――旧楠木牧場だった頃はジャンプレースには1頭も出走させた事が無いらしい。
もしかしたら、Kanonファームになってからは出走する時があるかもしれないので、秋名が見る理由。
「障害はカッコいいけど、故障率が高いから出走はさせないですよ」
秋子はテーブルにうつ伏せ状態でありながら、秋名が言いたい事が分かっていたので先に釘を刺す。
「もし、種牡馬入り出来ても需要が少ないですし」
秋子が言うように、障害馬は種牡馬入りが出来ても牝馬が集まる事が少ないのである。
イギリスなら障害用の種牡馬は人気があり、日本では日陰の存在とも言えてしまう。
ただ特定の種牡馬でなくても、平地では短距離馬の数が多い種牡馬でも当たりは出せる事がある。
どちらかと言うと、産駒が跳躍上手だったから活躍馬が出せたとも言える。
「まぁ、うちの馬が障害に出すとした成績が頭打ちになった時ですね」
その前に引退が多いと思いますが、と秋子は付け加えてからまたテーブルにうつ伏せになってしまった。
その頃、名雪は香里と遊んでいるが、遊ばれていると言った方が良いかもしれない惨事。
1頭も馬がいない放牧地で遊んでいるのだが名雪はともかく、数日前まで都会に住んでいた香里には豪雪の中を歩く事自体が少ない。
なので、慣れない雪の中を歩くので転んでしまい真っ白になってしまった香里だった。
「香里、大丈夫?」
パンパンと服にまとわり付いた雪を払いながら、頷く香里は名雪の手を借りて立ち上がる。
「まったく……こんなに雪がある所だと思わなかったわ」
「こっちだと都会と違って当たり前だよ」
はぁ、と香里は小さく溜息を吐いてから呆れるように空を眺めたが、雪は止む訳ではなかった。
そういえば、と名雪は香里に質問したい事があったのか聞いてみる。
「なんで、ここに引っ越してきたの?」
「あまり、詳しくは知らないけど……会社の上司と喧嘩みたい」
香里はやれやれと肩を竦めつつ、切れ長の目を閉じながら頭をゆっくりと左右に振る。
僅かに髪が乱れるが香里は気にせず、話を続けていく。
「えっと、確か……馬の事を書いた事が原因だと思うけど」
シン…ル…何とかって馬と言いながら香里は思い出そうとするか、名雪は直ぐに馬名が分かったようだ。
ルドルフの事だね、と名雪が言うと香里は思い出したのか頷く。
「つまり、香里の親は競馬記者なんだー」
香里はちょっとだけ嫌そうに顔をしかめているが、名雪は気付かないまま話していた。
2人はその後、何事も無く思いっきり子供らしく遊んだ。
主に雪合戦だったがアドバンテージは名雪にあり、不慣れな香里は被弾率が高く、思いっきり負けてしまった。
それでも何発かは名雪に当てているので、次回はリベンジするわよ、と香里は笑いながら呟いていた。
その笑顔は、名雪の事を心から認めているような表情だった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。