有馬記念が終わり、残るレースは年末に大井競馬場で開催される年度集大成となる東京大賞典が開催される。

     だが、それは地方の話であって招待された馬が居ない陣営にとっては、有馬記念が最終戦の方といえるだろう。

     Kanonファームの生産馬は東京大賞典に出走可能な馬は居ないので、この有馬記念で4着になったアイシクルランスが最後の結果となった。

     秋子は接戦で敗れた悔しさと哀愁を漂わせた表情をしながら、勝者でウイニングサークルで佇んでいるシルクジャスティスの陣営から顔を背けない。

     夕焼けに浮かぶ勝者と敗者のシルエットは明確に隔てて、スポットライトを浴びる者と浴びない者の様になっていた。

     それだけではなく、観客が1つなった様な光景を見納めるかの様に隅から隅までしっかりと見つめており、その表情は寂しさが浮かんでいる。

 

    「どうしたの? お母さん」
    「何でもないわ。今年の競馬は見納めにだし、この悔しさを晴らすためにこの光景を覚えておく必要があるためよ」
    「ふーん……まぁ、わたしもこの結果は悔しかったし来年は雪辱を期待したいね」
    「その時が来れば良いんだがな。来年もまた厳しいだろうな」

 

     秋名は水を差す様な言い分をするが、実際にエアグルーヴの陣営は来年も現役続行すると既に明言している。

     なので、間違いなく有馬記念を目標にするのは確実だろう。

     それだけではなく、まだ見ぬ古馬に現2歳馬なども居るのだから、そう簡単に雪辱は果たせるものではない。

 

    「うん。でも、簡単に諦めるつもりはないよ」
    「……そうか。それなら良いがな」

 

     秋名は珍しく、名雪の頭に手を置いてから整えられた髪がグシャグシャになるほど強く撫でる。

     名雪は少しだけ顔を顰めてしまうが、それでも為すがまま秋名に撫でられたままだった。

 

 

     ――さて、97年度下半期のG�気倭瓦峠�了し、残りは年度代表馬などの選出のみとなった。

     2番手候補だったタイキシャトルが香港マイルをオーストラリアからの遠征を下して1着に輝いた。

     日本競馬としてはフジヤマケンザン以来のG�犠〕�で、格が高いレースなので評価もうなぎ登りしている。

     それでも伝統のレースである天皇賞・秋を制したエアグルーヴを推す声は未だに深く根付いているのが現状。

     因みにサニーブライアンは既に選考外の対象と見られており、2頭に比べると低人気で勝利した2冠では大きく票に繋がらなかった。

     ただし、最優秀賞3歳牡馬の座は死守したようだが、ホワイトファントムに1/3近く票数を取られた事を記しておく。

     それだけ、長年競馬記者をしている者からすればメジロデュレンの血を引くホワイトファントムには票を入れたくなるのが心情だろう。

     因みに他の選出馬は以下の通り。

     最優秀賞2歳牡馬:グラスワンダー。

     最優秀賞2歳牝馬:アインブライド。

     最優秀賞3歳牡馬:サニーブライアン。

     最優秀賞3歳牝馬:メジロドーベル。

     最優秀賞4歳以上牡馬:マーベラスサンデー。

     最優秀賞4歳以上牝馬:エアグルーヴ。

     最優秀賞父内国産馬:メジロドーベル。

     最優秀賞短距離馬:タイキシャトル。

     最優秀賞ダート馬:バトルライン。

     と、まだこれからの成績が分からない2歳馬を除くと、各馬が順当に票を集めたと分かる。

     最優秀賞ダート馬のバトルラインはフェブラリーSで3着だったが、年間を通して安定した結果+帝王賞を勝利した事が票に繋がった。

     今回の年度代表馬選出には日本競馬では非常に珍しい出来事があった。

     その内容は2歳馬ながらグラスワンダーが年度代表馬として10票も得た事である。

     これは過去を振り返ってもグラスワンダー1頭のみしか成し遂げておらず、マル外の怪物として新たな歴史を刻んだといえるだろう。

     さて、残る年度代表馬の席を獲得したのは今年G�毅馨,掘△Δ然こ葦鸚�で1つ制したタイキシャトルが選ばれた。

     短距離馬としては史上初の選考でグラスワンダーと同じく、これからはマル外が活躍するという暗示しているかのように。

     しかし、この結果によって日本競馬は新たな時代を迎えたといえるのは事実。

     と、競馬雑誌には来年の予想を含めつつ年度代表馬選出票数とG�祇�績が掲載されていた。

 

    「最後くらいは1つ選出されたかったんですが……」
    「仕方ないさ。私達では取れなかったんだからな。後は名雪ちゃんに任せよう」
    「そうですね。これからのKanonファームは名雪が運営するのだから、わたし達が口出しする事ではありませんね」

 

     秋子はそう呟くと、名雪宛と分かる手紙をテーブルに置いて手元にあるバッグを持ち、外に向かっていく。

     秋名は久しぶりに吸っていた煙草を灰皿に押し付けて揉み消すと、バッグを担ぎ、秋子の後を追う。

 

    「さて、何10年になるか分からんが、この風景も当分見納めだな」
    「名雪が生産した馬がわたし達の前に現われて、超えてくれるまで帰るのは無理ですけど、そうでもしないと親の威厳がありませんから」
    「まぁ、大丈夫だろう。生産を続けていれば確実に再び会えるだろうしな」

 

     そう願っています、と秋子は満面の笑顔を浮かべて秋名と共にKanonファームから去っていく。

     全ては名雪が生産した馬と勝負するために、秋子は一部の馬を引き連れて長年のパートナーである姉の秋名と共に海外に向かって行った。

 

 

     戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:グラスワンダー……父はシルヴァーホーク。
     注2:アインブライド……父はコマンドインチーフ。