有馬記念のパドックは無事に終わり、各馬はこれが97年度最後となる中山のターフを1番で駆け抜ける為に無駄な力を使わず、本馬場入場に向かう。

     チラチラと灰色の空から幻想的に雪が降り落ちており、12月23日のクリスマスらしい趣。

     雪はターフに落ちて、瞬く間に消えていく。

     だが、そんな寒風を吹き飛ばす熱気が中山競馬場全体を包み込んでおり、およそ10万人近い観客が今か今かと本馬場入場を待ちわびている。

     そして、1枠1番のアイシクルランスが姿を現すと観客から歓声を受けつつ厩務員がリードを外すと緑色に輝く芝の絨毯を駆けていく。

 

    「菊花賞2着、春の天皇賞で4着。そろそろG�気鮴�したいアイシクルランス。栄冠は輝くか?!」

 

     それだけG�祇錣遼槐肋貽�場は盛り上がるもので、観客の叫び声によって中山競馬場を地響きの様に揺るがしていく。

     栗毛のたてがみと尻尾を揺らしながら、ターフを駆けていく様は生き生きとした姿が見受けられる。

 

    「入れ込んで無さそうだね」
    「今の所は大丈夫だろうな。レースになればどうなるかは分からんがな」

 

     名雪は制服のケープを軽く弄りつつ、安堵を込めた吐息を艶っぽく吐き出した。

     ターフビジョンには各馬が本馬場入場を果たしており、軽快な入場曲がアクセント程度に聞こえてくる。

 

    「どの馬も100%の仕上がりですし、勝つにはそれを超えないと駄目ですね」
    「そうだな。今回は1枠1番からのスタートだし、上手く位置取りすれば距離ロスは少なくて済むからな」
    「問題は囲まれない状況で行けるかだね。18頭立てだし、外からの圧力は増すだろうしね」

 

     囲まれたまま実力を発揮出来ず、有馬記念というグランプリで敗退するのは情けないので、負けるなら全力で走る事が望まれるのだから。

 

    「ここを制して97年度グランプリを連勝したいマーベラスサンデー。本日は2番人気に甘んじています」

 

     今年は宝塚記念と産経大阪杯を制しているマーベラスサンデーだが、1番人気は譲ってしまう。

 

    「さあ、秋の天皇賞で牡馬を下して、ジャパンカップで日本馬最先着を果たした女傑エアグルーヴです。本日は圧倒的1番人気に支持されています」

 

     天皇賞・秋、札幌記念とマーメイドSを制している牝馬は今日も堂々として本馬場入場をこなしていく。

 

    「3歳牝馬として勇敢に有馬記念に出走してきたメジロドーベル。ここも制して女王の座に付けるのか?」

 

     と主となる出走馬の紹介がなされており、発走時間まで残り数分まで迫っている。

 

 

     そして、発送時間になりスターターが台の上に上がると観客のざわめきが一層と強くなる。

     そして、中山競馬場特有のファンファーレが生演奏されるとそれに合わせて、丸めた競馬新聞を片手に手拍子を行う。

     各馬順調にゲート内に入り最後に大外枠の馬が入ると、有馬記念のスタートが切られた。

     アイシクルランスはまずまずのスタートだったが、騎手が押して少しだけ位置取りを上げる。

     およそ8番手と中団からレースを進める事を騎手は選択した様だ。

 

    「中団からですか。カネツクロスが逃げている分、ペースは速くなるでしょうしあの位置取りなら大丈夫でしょう」
    「完全に内で走っている訳ではなく、2頭か3頭分外に持ち出しているしな」

 

     カネツクロスは淡々と2番手以降を4馬身近く突き放しているが、1年以上勝ち鞍が無いので既に終わった馬に過ぎない。

     殆どの騎手が垂れるのが分かっているからこそ、追いかけるのは誰も居ない状況。

     1週目の直線で歓声を浴びながら駆け抜けて、早くも3コーナーを過ぎて向こう正面に入っていく。

     この辺りから、各馬は徐々に進出するために騎手内の駆け引きが行われていると思われるがターフビジョンからでは分からない。

     そして、残り距離が1000mを超えた辺りで各馬がカネツクロスを捉える為に動き始める。

     真っ先につぶれる存在とはいえ、いつまでも先頭を走られていると粘られる可能性もあるので、早めに潰す方が良いのだから。

 

    「最後方のシルクジャスティスだけはまだ動きませんが、ここでアイシクルランスが馬群をかいくぐって動き出します」

 

     スルスルと騎手に導かれて、動き出すが低人気が幸いしてマークしている騎手は誰も居ない。

     最後のコーナーを超え、後方から各馬が仕掛けて波の様なうねりがカネツクロスを飲み込んでしまう。

     残り300m。

     アイシクルランスは先に仕掛けたリードを武器にして2番手に上昇しており、このまま押し切れば勝利は目の前。

     だが、そう簡単に問屋が卸す訳ではなく、外と内からエアグルーヴとマーベラスサンデーが豪快に伸びてきた。

     騎手はチラリとターフビジョンを見やってから、鞭を振るい手綱を押し続けて奮わせる。

     残り200m。

     既に3頭の決着になると思われていたが、内から猛然と脚を伸ばしたシルクジャスティスが牙を剥く。

     そして、クラシックは無冠だったシルクジャスティスが古馬を下してグランプリホースの座に輝いた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:シルクジャスティス……父はブライアンズタイム。