12月になり、各JRA賞の選考が競馬ファンの間で予想がなされている状況になりつつある。

     今年の中で票を集める可能性が高いのは、天皇賞・秋を制したエアグルーヴが中心と言われており、続いては香港遠征結果次第だがタイキシャトルの名も。

     17年振りの牝馬による天皇賞・秋を制した偉大な牝馬か或いは負けを知らない3歳短距離王者の争いと見られているのだから。

     片や、日本競馬の伝統を制した牝馬。

     片や、近大のスピード競馬という時代に生まれた牡馬。

     と、この2頭から選択するのは長年競馬記事などを書いてきた記者でも悩ます事項に違いなかった。

     他の候補として挙がるのは、春の2冠馬――サニーブライアンだが、低人気での勝利が印象を遠ざけてしまっている。

 

    「ホワイトファントムも票は集まるでしょうけど、受賞はしないでしょうね」
    「集まるなら最優秀内国産馬だろうが、メジロドーベルが居るから不可能だろうな」
    「有馬記念を勝利出来れば票は集まるかもしれないけど、休養中だからね」

 

     やれやれ、と名雪は肩を竦めて、雪が降り続けている外を眺めながら溜息を吐く。

     既に放牧地は雪で白く染まっており、ある程度の除雪は済んでいるので放牧地の中を馬が駆けている。

     0歳馬はイチゴサンデーの初年度産駒が父に似たのか、長く使える脚でジックリと駆けて、他の馬を交わしていた。

     それに続くのは黒鹿毛の馬体が雪景色に写り得る姿で、雪を強く蹴り上げて幻想的に走っている。

     イチゴサンデーの97は1番、血統が良いので期待されているが、まだ現状ではハッキリと評価を下せるものではない。

     ライスシャワーの血を引く産駒もステイヤー寄りのタイプだが、しっかりと脚を伸ばして他の馬を置き去りにしている。

 

    「あの2頭は走りそうだね」
    「今の時点では何ともいえないけど、きちんと育成出来れば問題無いと思うわ」
    「デビューは遅い可能性もあるが、私はミストケープの97を期待したい所だな」
    「わたしもですね。あの馬体なら中距離から長距離で活躍してくれそうですし」

 

     秋子と秋名の評価はミストケープの産駒が1番という認識を持っており、逆に名雪はイチゴサンデーの産駒に期待を注いでいる。

     綺麗に評価は分かれたが、どちらも生産馬なので育成に関しては手を抜くことなくここまで行われているのだから。

 

 

     来年の夏にはデビューする96年度の産駒は育成牧場で毎日、しっかりと他陣営の馬と共に調教施設を駆けている。

     後、数ヶ月もすれば厩舎に所属し調教されてレース出走が近づいていく。

     そのうちデビューまで無事にこぎ着けられるかが最初の課題で、ここにたどり着けない馬も1割は居るのだから。

 

    「向こうはキチンと調教されているみたいだし、デビューが待ち遠しいね」
    「……そうだな。無事に出走するまで鍛えられると良いな」

 

     秋名はそれだけを答えると、今週の競馬新聞を眺めて有馬記念のファン投票順位を見始める。

     エアグルーヴが圧倒的な票数を集めており、春の3強だったマーベラスサンデーが続いている状況。

     勿論、バブルガムフェローの名も連ねているが、途中で故障を発症したサクラローレルとマヤノトップガンには票が集まっていない。

     Kanonファームの生産馬からはホワイトファントムが9位、アイシクルランスが17位となっている。

     ホワイトファントムは出走不可能なので、アイシクルランスに争点は絞られている状況である。

 

    「アルゼンチン共和国杯を制した割には票が集まらないですね」
    「今年は既にAJCC、七夕賞、アルゼンチン共和国杯を制しているんだがな」
    「GⅠでも活躍しているんだけどなー。やはり、マイナーな所があるのかもしれないね」

 

     菊花賞2着。天皇賞・春4着と実績は残しているが、勝ち切れ無さがファン投票で票が集まり難くなっている原因かもしれない。

     現時点では何とか出走出来る位置取りだが、他の重賞結果次第ではガラリと出走不可能になる可能性も。

 

    「天命を待つしかないな」
    「今年の有馬記念はお祭りに近い出走メンバー予定ですから、出来ればこの相手を敵にしてどこまでやれるかが見たいですね」

 

     それだけ有力馬が揃う有馬記念に出走出来るのは一種の名誉なのだから。

 

 

     そして、秋名が読んでいた競馬新聞には朝日杯フューチュリティSの結果が掲載されており、“マル外の怪物誕生”と大きく書かれていた。

 

 

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     特になし。