大量の彩り豊かな花がリビングの中に飾られており、様々な花と草葉が一緒に混ざり合っているが、お互いの長所を殺す事無く優雅さを保っている。
殆どの花は贈られて来た物で、祝いの言葉が書かれたメッセージカードと共にKanonファームに集まってきていた。
更に置いても鳴り続ける電話と、祝いの為に酒を片手に訪れる客も多い。
Kanonファームで期間的に働いている北川と斉藤、名雪の親友である香里と栞もこの場に居る。
その中には主戦を務めている騎手に、直前で乗り代わる事になってしまった佐祐理の姿も見受けられる。
そう、Kanonファームの生産馬であるホワイトファントムが第５８回菊花賞を強豪であるマチカネフクキタルとメジロブライトを除けて勝利したのだから。
牝馬クラシックも含めて、Kanonファームとしては初のクラシック制覇となり、１９９５年のアメリカンオークス以来のＧ�祇�覇であった。
そして、秋子が牧場を１９８４年から引き継いで１４年と短い様で長い時間掛かっており、秋子にとっては悲願の達成なのだから。
日高に牧場を構えている関係者には秋子の苦労を知っているので、秋子の元に賞賛の言葉を掛けている。
多くの関係者は菊花賞の優勝カップとホワイトファントムに掛けられていた優勝レイを見ている。
その優勝レイは緑色の生地に菊花賞と金色の文字が輝き、白菊が３冠の意味を持つ為、３箇所にあしらわれて豪華さを窺わせた。
宴は酣となっても、競馬談話に花を咲かせており多くの関係者が今日の菊花賞について、語り合っていた。
メジロデュレンという現代の競馬に相応しく無い血統を父に持つホワイトファントムが勝利したので、日高地区の関係者も秋子と同じ気持ちだろう。
それだけ、日高地区の牧場は経済的と繁殖牝馬の質で大きく大手とは劣っているのだから。
「ふん、取り敢えずはおめでとうと言っておきますわ」
「あら、ありがとうございます」
宮藤は心底から悔しさを露にしつつも、礼儀は分かっているので祝言を口にするが、秋子は最高の笑顔を向けながらお礼を言う。
「……勘違いしなさらないでほしいですわ。私はいつか水瀬さんを越える為に宣戦布告しに来ただけですわ」
その宣戦布告に満足したのか、宮藤は宴の中に加わろうとせずにお祝いの為の花束だけを秋子にそのまま帰っていった。
「やれやれ、素直じゃないですね」
そういって宮藤を残念そうに見送ると秋子は主賓の為、再びリビングに向かっていった。
そして、本来なら１２時を過ぎても続いていそうな宴だったが、牧場関係者にとっては馬優先の為、早々と帰宅していく者が多かった。
だが、そこにはKanonファームの様にＧ�祇�覇を狙うのを目標にした表情になっていた。
まだ帰っていないのは香里や北川、斉藤に佐祐理と菊花賞で手綱を取った騎手が主なメンバー。
「悪いな。倉田、お手馬奪っちまって」
「いいえ、気にしないでください。私の成績と年齢が足りなかったので乗れないのは当たり前ですから」
「そういえば、まだ足りてなかったんだな」
「はい。いつか再びホワイトファントムに騎乗する為に精進するので今は預けておきますね」
「おう、その意気だ」
わざとらしく佐祐理の頭を子ども扱いするように撫でるが、佐祐理は嫌がる素振りを見せずに成すがまま受け入れている。
実際に佐祐理との年齢差は２倍近くあるのだから。
一方、名雪は香里と栞から何度も感想などを聞かれているので、辟易しているが、嬉しさが勝っているのか普段より口が軽い。
「うん、わたしとしても今日は最高に嬉しいよ……１４年だからね。手伝い始めてから」
「名雪も大変ね。まだまだここがゴールって訳じゃないのに」
「別に苦労しているとは思っていないよ。過程からしっかりと結果に結びついたのが見られたしね」
「はー、そういうものなんですか？」
「そういうものなんだよ。栞ちゃん」
栞は分かったのか分からなかったのか首を傾げてしまうが、何とか納得したようでコクコクと小さく頷く。
そして、北川と斉藤は次のローテーションが気になる様で、名雪に質問をし始めるが、要領を得ない答えしか返ってこない。
「もしかしたら、有馬記念に出走するかもしれないし、来年の天皇賞・春を目指して休養するかもしれないよ」
「オレとしては有馬記念で古馬と激突している所が見てみたいんだけどな」
「休養させたいのがわたしの本心だけどね」
と、二人の意見はまったく合っていなかった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。