駆ける馬　４０３話

　　　　　京成杯オータムハンデをダンシングウイナーが制して、これで本年度は賞５つ目の勝利。

　　　　　そのうちの１つ――きさらぎ賞だけは、宮藤の所有馬であるルビーレイが勝利したので、生産者として重賞制覇した事になる。

　　　　　これまでの年度別重賞勝利数は４つが最高だったので、今年はあっさりとKanonファームの記録を塗り替えたのであった。

　　　　　まだ重賞を勝てる可能性は残されており、ダンシングウイナーの他にはアイシクルランス、タツマキマキマスカ、ルビーレイにもチャンスが。

　　　　　どの馬も近い内にＧⅠ出走予定で大金星を狙える可能性を秘めており、例え１％でも、チャンスはあるのだから。

　　　　「今年は去年より調子良く重賞勝っているな……運が良すぎるだけかもしれんがな」
　　　　「既に５勝ですからね。地道に調教を続けた名雪のお陰かもしれませんね」
　　　　「最近は安定して乗れているからな。結果に結びつくのも当然かもな」
　　　　「数はこなしていますから、後はコツコツと技術を上げていけば問題ないでしょう」

　　　　　毎日０歳馬の追い運動を行っているのが、サラブレッドの基礎である肉体を作り上げ、精神を鍛え上げるため。

　　　　　その糧を耐えてきた事だからこそ、重賞を制覇するまで至った過程なのだから。

　　　　「これなら、来年からは全般的に任せても問題無いでしょう」
　　　　「そうだな。既に配合とかも任せている状況だし、後は名雪ちゃんが全体を引っ張っていけば大丈夫だろう」

　　　　　調教時など牧場業務を行っている時は従業員を引っ張っているが、それ以外では、まだまだ秋子に及ばない。

　　　　　しかし、名雪は秋子の競馬に対する情熱を背負った背を見て育っているので、追いつく様にはなるだろう。

　　　　　本日の競馬は中山で天皇賞・秋のステップレースとして謳われていた時代があったオールカマーが開催される。

　　　　　近年はオールカマーよりも１０月の東京競馬場で開催される毎日王冠の方が出走馬レベルが高くなっており、こちらはレベルが低下している。

　　　　　最近の勝ち馬の中ではビワハヤヒデ、ヒシアマゾン、サクラローレルと名を連ねているが、この後にＧⅠを勝利したのはサクラローレルのみ。

　　　　　そんな低レベルの重賞になりかけているオールカマーだが、今年の出走馬はオークスを制した３歳牝馬メジロドーベルが勇敢に出走してきた。

　　　　　他にもＧⅠ馬は居るのだが、川崎記念を制したアブクマポーロのみで、対抗になり得るのはアイシクルランスのみという見解が。

　　　　　それだけ、今年のメンバーはメジロドーベルとアイシクルランス以外のレベルは低く、２強対決の様子を表している。

　　　　　３番人気には川崎記念を制したアブクマポーロだが、オッズは歴然とした差で２頭とは１桁違うオッズが示されている。

　　　　「馬の出来自体は良いと思いますが、初芝がどう影響するかがアブクマポーロの課題でしょうね」

　　　　　と、パドックを周回している最中に実況からのアブクマポーロの評価は芝を如何にこなすかが課題と挙げられる程。

　　　　　アイシクルランスと同じ父――クリスタルグリッターズだが、ダートばかり走ってきた馬があっさりと適応するのも難しい。

　　　　　その点に比べて、アイシクルランスは菊花賞２着、天皇賞・春で４着になった実績を持つのだから比べるまでも無い。

　　　　「さて、タツマキマキマスカの為にアイシクルランスはしっかりとメジロドーベルをマークしてもらいませんとね」

　　　　　まるで捨て駒のように発言をする秋子だが、ここでメジロドーベルに疲労を残すような走りをさせれば、こっちに勝算が傾くのだから間違っていない。

　　　　「あわよくば、アイシクルランスが勝利してくれれば嬉しい誤算だがな」
　　　　「これが休養明けとなるレースで古馬混合戦に出走するメジロドーベルには弱点が多数あると思いますけど、実績では負けていますからね」
　　　　「タツマキマキマスカが秋華賞で勝つ為には少々汚い手段だが、なりふり構っていられないからな」

　　　　　そして、レース発走時間となり、各馬はゲート前に集合し誘導員にリードを着けられ、ゲートの中に曳かれていく。

　　　　　メジロドーベルは６枠６番、アイシクルランスは７枠７番と秋子が望み通りの展開に持ち込めそうな枠の割り当て。

　　　　　スタートが切られるとメジロドーベルは僅かにスタートが悪かったのか、後方から進めるような位置取りに。

　　　　　アイシクルランスは綺麗なスタートでメジロドーベルよりも前でレース進めようとしていたが、メジロドーベルがハミを取って外から進出していく。

　　　　　そして、入れ込んだ様に見えるが先頭に立つと、しっかりと落ち着いて古馬陣を引っ張り、レース全体を掌握するような逃げを披露。

　　　　　まるでキョウエイマーチを彷彿させる小気味良い走りで、それをマークする為にアイシクルランスが２番手に浮上する。

　　　　　２頭立てを思わせるマッチレースだが、他馬もスローペースと見越して前の方でレースを進めている。

　　　　　だが、他馬は一切仕掛けてペースを上げず、２頭がやり合っているのを眺めているだけ。

　　　　　３コーナー付近でようやくレースが動き出すが、スローペースのままだったので、２頭の走りは余裕が残っている。

　　　　　そして、直線に入ると真っ先にメジロドーベルが抜け出して他馬が必死に追い詰めようとしている。

　　　　　だが、アイシクルランスも交わせない馬が多く、最後はアイシクルランスがメジロドーベルの半馬身まで迫った所がゴールだった。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　注１：アブクマポーロ……実際にはこの時点で、川崎記念は勝利していない。