Kanonファームの生産馬である2歳馬の1頭がデビュー戦を迎え、初戦である小倉ダート1000m戦に出走。
出走する馬はジャッジアロー。
母は1800mで活躍したエレメントアローで、父はアメリカのダート短距離で活躍したアジュディケーティング。
即ち、父の適正距離が最も合うと考えられて、この時期――7月の2歳ダートに駒を進めた経緯を持つ。
父は2歳から3歳春まで活躍した早熟馬であり、ジャッジアローも一概に早熟とはいえないが現在の馬体は出来上がっている感触も。
「うちのダート馬って早い時期からの活躍が多いね。もう少し成長力があっても良いと思うんだけど父の影響が強いのかな?」
「基本的に早熟であるアメリカ種牡馬の種付けが多いから必然的にそうなっているな。基本的に日本のダート種牡馬が育ってないからな」
名雪は競馬新聞の本日新馬戦に出走するジャッジアローの出走表を眺めながら、そんな事を呟く。
新聞に記されている印は○○△△◎と圧倒的人気を思わせる評価では無いが、1番人気の馬とはそれ程の差があるわけではない。
半兄にダート戦で3勝しているレッドミラージュが居るので、その点が評価されているのだろう。
そのため、競馬新聞はジャッジアローの一覧に兄レッドミラージュと掲載しており、ダート適正が高いと踏んでいるのが伝わってくる。
調教師のコメントには“ダート適正は高いだろうし、ここは確勝すると思っている“と単純明快で分かりやすい文章が掲載。
「レッドミラージュも2歳から勝利しているし、この人気になるのは頷けるなぁ」
「ジャッジアローはここを勝利して2歳ダート重賞制覇を目指して欲しい所だな」
両頭ともダートで活躍出来る血統であると、秋名は見込んでいるが最近のダート路線は強豪が集まりやすい傾向。
なので、どこまでやるかは今回の新馬戦次第だろう。
ジャッジアローを差し置いて1番人気に支持されている馬もダート適正が高いと見られている。
「初戦から相手は強いけど、ジャッジアローも負けないと思う」
「私もそう思うんだがな。まずはどれだけ走るか見極めないとな」
2人はそんな事を口にしながら、ちょうど、直前のレースが終わった競馬番組を見始める。
パドックを闊歩するジャッジアローは2歳馬らしからぬ、落ち着きを観客に見せ付けている。
初戦とは思えない落ち着き振りで、他馬に比べると大人びているのが現在のオッズを押し上げた要因の様で1番人気に成り上がった。
因みに1番人気に支持されていた馬は夏の小倉という理由だけではなく、発汗が酷い状態で入れ込んでいる。
チャンスといえばチャンスだが、レースになればどうにでも展開はガラリと変わる為、油断は出来ないだろう。
「ジャッジアローは意外と落ち着いていますね」
「牧場作業は終わったのか。まぁ、見ての通りジャッジアローが落ち着いているのに対して、1番人気だったのは酷く入れ込んでしまっている」
「なるほど……この状況では打って変わって1番人気に支持されてもおかしくないですね」
「ただ、勝てるかどうかはまた別問題だがな」
秋子はレース直前に放送されたパドック情報を見ながら、1番人気に支持された実態が分かったようだ。
それだけ、1番人気だった馬の入れ込み具合は酷いもので、既に勝ちは見放されているといえる。
そんな中で新馬戦の発走時間が刻々と迫ってきた。
レースは1000mと一瞬で決着が着く距離で、出遅れなどしてしまったら勝算は一瞬でご破算してしまう。
そんな中でもジャッジアローは落ち着き払って、ゲートに入って直立不動のまま、ゲートを開くのを待っている。
そして、最後に8枠11番の馬が入ってから数秒後にスタートが切られた。
ジャッジアローはスムーズにゲートから出たが、他の馬が寄れてぶつかったのか、僅かに位置取りが下がってしまう。
本来なら、4番手付近からレースを進めるつもりだったようだが、ぶつかった影響で馬群の中からレースを進める。
しかし、馬群に包まれた位置では砂を被ってしまっているが、ジャッジアローはしっかりと前を見据えて嫌がる素振りを見せずに駆けている。
最終コーナーを回って、ジャッジアローは騎手の指示に反応して外に持ち出すと、軽々とした走りで前を徐々に捉えていく。
そして、ゴール直前で2着馬を首差だけ交わして、初戦ながら無事に勝利をあげた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。