ルビーレイ桜花賞3着。

     この事実だけが残り、牝馬1冠目の制覇は今春も不可能だった。

     次は2400mと牝馬には過酷な距離で開催されるオークス――優駿牝馬が1ヵ月後の東京に控えている。

     だが、今回の結果はスタミナ有利なルビーレイが真っ先に脱落した事で距離適正に不安が現れてしまった。

     競り合わせる格好に持ち込んだが、キョウエイマーチとメジロドーベルを交わせずに敗れたのだから。

     先行馬には苦しいハイペースながら最後まで粘ったのは確かだが、より早いペースで駆けたキョウエイマーチに遅れを取ったのだから不安にもなる。

     差し馬だったメジロドーベルに敗れたのは敗因として分かりやすいが、キョウエイマーチに敗れたのは理由を見つけにくい。

     こうなるとオークスの不安が現れてしまい出走判断が難しくなってしまう可能性も。

     とはいえ、折角得た出走権利を手放す程悲観的な結果ではなく、1・1/2馬身だったので負けて尚強しといえる。

     そして、1400mのフィリーズレビューを制したマイル向きのキョウエイマーチよりはルビーレイの方が距離適正は勝っていると思われる。

 

    「このままでは引き下がれませんわ」
    「ええ。それについてはわたしも同意します。問題としては2400mを走り切るスタミナを有しているかですね」

 

     3歳牝馬にとってこの距離――2400mは初物尽くしで精々2000mまでしか走ったことが無いのだから、秋子の心配はもっともな意見。

     ルビーレイは1800mのきさらぎ賞を制しているので同年代の牝馬よりはスタミナを有しているだろう。

     その事を踏まえれば低く勝算はあるかもしれないが、不安点が残ってしまうのは確かだった。

 

    「不安点があるのは仕方ありませんけど、出来る限り不安箇所を減らしたいですわ」
    「そうですね。桜花賞は前に行き過ぎたので負けた可能性がありますので、この不安さえ消せれば1つは減るでしょう」

 

     秋子の指摘は一応、1つの不安を消すものだが実用性は皆無に等しく、展開でどうにでも変わってしまうのだから。

     あまり当てにはならないが、現状ではこれくらいしか理由を見つけられないので、気に留めておく位しか出来ない。

 

 

     今週の競馬は中山競馬場で牡馬クラシック1冠目の皐月賞が開催されるが、anonファーム生産馬は牡馬クラシックに駒を進めた馬は居ない。

     なので、生産馬による2週連続クラシック出走は不可能である。

     それでも一般レースに出走する馬は居るので未出走で終わるわけではない。

     まずは総武ステークスにレッドミラージュが12月以来の休養明けとなる出走で、初の1800mをこなすかが課題に。

     得意なダート戦とはいえ、初距離休養明けと不安を残しているので人気は10番人気に過ぎない。

     続いては福島競馬場3歳未勝利戦芝2000mにホワイトファントムが出走。

     前走で6着と人気より上回った結果を残しており、そろそろ勝ち上がりを期待している。

     しかし、今回は前走の騎手から乗り代わって、新人騎手――倉田佐祐理が騎乗するので再び人気は下から数えた方が早い13番人気に。

     佐祐理が自ら売りに出て騎乗を得た経緯だが、ここまでの評価は女性騎手としてはまずまずの評価を得ている。

     欧州帰りの騎乗スタイルを有して冷静に馬群を突破させる技術を持ち、新人にありがちな馬をふらつかせる事も無く、しっかりと追う事が出来る。

     それが佐祐理の評価で女性騎手らしくない度胸を持つので、競馬ファンにはそこそこ名が浸透している所。

     因みに女神のように慈悲溢れた表情でファンになった者も多いが、その表情とは裏腹な騎乗が人気を呼び込んでいるといえる。

 

    「この馬はズブくてスタミナもあるから早仕掛けで、粘ってくれれば人気以上は期待出来るな」
    「分かりました……逃げられたら逃げるつもりですけど大丈夫ですよね?」
    「まだ逃げた事は無いが、1頭になるとソラを使う事は調教では無かったから大丈夫だろう」

 

     佐祐理は調教師からホワイトファントムの特徴を聞いてから、作戦を遂行すべく未勝利戦のシミュレーションを騎乗しながら行い始めたようだ。

 

 

     そして、レース発走時間に。

     スタートが切られると、どの馬も行く様子が殆ど無く控えたので、スローでレースが進むと思われていた。

     だが、それを打ち破るように手綱を扱かれて佐祐理が騎乗するホワイトファントムがジワリと先手を奪う。

     今までの鈍さが嘘のようにスッーと滑らかに先頭を奪い、リードは2馬身程の差を付けて駆けている。

     佐祐理との相性が良いからか、ホワイトファントムは入れ込んだ様子も無く初めての逃げながら上手く走っている。

     そして、そのまま2馬身のリードを保ったまま、ホワイトファントムは影も踏ませず見事に初勝利を挙げた。

     この勝利で佐祐理の評価はまた一段と良くなった事も記しておく。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:特になし。