短いようで長い桜花賞のパドックが終わり、各馬は戦場である馬場に入場し
軽く馬場の感触を確かめるように駆けていく。
中には入れ込んでいる馬も居るが上位3頭であるキョウエイマーチ、メジロドーベルとルビーレイはきびきびとした動き。
早く走りたいという想いがあるからか遠目から見ても3頭の動きは抜群であり、他の馬とは勢いが違う。
この場にNHKマイルカップを目指すシーキングザパールがいれば、また盛り上がりは違っただろう。
だが、上位3頭の人気は間違いなく抜き出ており、他馬では相手にならない可能性が高い。
しかし、競馬と言うのは何が起こるかが分からない部分が多く、今回は3歳牝馬という存在は1発逆転をあり得るのだから。
「……ドキドキしてきましたわ」
「宮藤さんもですか。わたしもクラシックに生産馬が出走して勝算があると分かるのはドキドキします」
秋子の生産馬でクラシックに出走した頭数は6頭で、そのうち最高着順はタイフーンの皐月賞2着とアイシクルランスの菊花賞2着が最高。
つまり、秋子の結果は他の生産牧場に比べると優勝はしていないが、13年でここまでの成績を出したと言う事である。
だが、クラシック制覇というのはまた厳しいもので1年に18頭の精鋭しか出走出来ないのだから。
それだけ秋子にとってクラシックという存在は、例え低人気でもわくわくさせるものである。
秋子はまだ見ぬクラシック勝利の味を。
宮藤は初のG�祇�覇を得る為に。
そんな2人の想いを乗せて、ルビーレイがクラシック――桜花賞を駆ける。
そして、レース発走時間が近づき、待機所で輪乗りを行っていた各馬が騎手に導かれてゲート前に向かっていく。
桜花賞に駒を進めた18頭の精鋭が誘導員に曳かれて、最後の闊歩を行う。
レース発走時間である15:45を指すとスターターが赤旗を振り、それに合わせて阪神競馬場のファンファーレが鳴り響く。
観客席からは丸めた競馬新聞で手拍子を行い、喧騒が阪神競馬場を包む。
ルビーレイは7枠15番からと大外からのスタートで、下手なスタートを切る事で位置取りに差が現れてしまう。
抜群のスタートを切って先行をキープしないと、切れ味よりも長い脚が使えるルビーレイには厳しいのだから。
前走のきさらぎ賞ではたまたま差しで成功したが、本質的には先行の方があっている。
最後に大外――8枠18番のキョウエイマーチがゲートに入り、スタートが切られた。
それに合わせるように観客席からは騒然とした声が競馬場を揺るがし、ターフビジョンには位置取りを争う各馬の様子が映し出される。
最初に飛び出して先手を奪ったのは予想通りキョウエイマーチで、爽快な走りで2番手の馬と3馬身程離していく。
ルビーレイもキョウエイマーチに隠れる様に好スタートを切って、3〜4番手といつも通りの位置に。
メジロドーベルはやや立ち遅れたが大きく出遅れた訳でもなく、キョウエイマーチとルビーレイが好スタートで目立ち過ぎたともいえる。
そのため、馬群に包まれるような格好で中団付近――8〜10番手を走っている。
と、それぞれお互いの得意な脚質に合わせた位置取りからレースを進めており、三つ巴らしいレースに。
勿論、他馬も虎視眈々と優勝を狙っており、一筋縄ではいかないのがクラシックでどの馬も勇敢に動いている。
残り800m。
ここまでのペースはキョウエイマーチが叩き出したハイペースで進んでおり、後方の馬にはチャンスが出てきた。
だが、キョウエイマーチもルビーレイもまだ余裕のある走りをしているので、他馬は早い位置から仕掛けないと届かない可能性が。
例外はメジロドーベルのみで、叩き合いに持ち込めば更なる切れが発揮するのだから。
そして、キョウエイマーチが余裕あるまま、最終コーナーを先頭で駆けて他馬を従える格好で直線に入る。
続くルビーレイが2番手の馬を外から撒くって、キョウエイマーチを追いかける。
その勢いでルビーレイはキョウエイマーチに競りかける形に持ち込み、騎手はお互いに様子を伺いながらも、鞭はまだ入れない。
最後の役者であるメジロドーベルが馬群を蹴散らしつつ、キョウエイマーチルビーレイに競り掛けて優勝を争う。
ここからが本番といわんばかりに3頭の騎手は鞭を入れて、手綱を押して加速させる。
だが、この状況――叩き合いが何時までも続く訳でもなく、この状況の方がよりスタミナを消費していくのが早いのだから。
そして、最初に抜け出したのは連勝中のキョウエイマーチで、最初に潰れたのはスタミナには問題が無そうなルビーレイだった。
メジロドーベルは何とかキョウエイマーチに食らいつくが、スピードの差が現れたのか2馬身突き放されてしまった。
今年の桜花賞は1着から3着まで人気通りの決着だったが、直線の攻防は牝馬戦とは思えない程の迫力があるものだった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:キョウエイマーチ……父はダンシングブレイヴ。