12月。

     既に牧場は真っ白く染まっており、馬が点在している以外は殆ど白である。

     放牧地の雪掻きは真っ先に行われ、数時間後にようやく繁殖牝馬と仔馬が別々の放牧地に出される。

     子別れの事を忘れているように仔馬は一目散に除雪された放牧地を駆け巡る。

 

    「放牧は完了と」

 

     肩や頭に積もった雪をサッと払って、次の作業のために厩舎に向かう祐一。

     雪掻きをしても、直ぐに積もってしまうので毎日4人で行っているが、祐一以外は全員女性なので、祐一の仕事が多い。

     期待の裏返しとして仕事を増やすように、と秋子にこっそりと秋名が伝えていた。

     秋名自身が言うと反発すると思ったので、秋子から言って貰うと祐一は反発をせずにテキパキとこなすようになった。

     秋子の指示ならテキパキとやるのか、と秋名は肩を落としながらぼやいて作業を続ける。

 

    「祐一も単純ですね。秋名さん」

 

     キツイ一言を祐一の母親に向かって言う名雪だが、秋名も同意して頷いている。

 

    「まぁ、効率化が上がった分マシだろう?」
    「良い事ですね」

 

     ガシガシと名雪の頭を何も言わずに撫でる秋名だが、名雪は気持ち良さそうに顔を緩める。

 

    「わざわざ秋子を真似て丁寧に話さなくて良いのに……それと私の喋り方も意識しているだろう?」

 

     似ていますか? と逆に質問をする名雪に対して、秋名は背格好以外はとおどけて言う。

     つまり、それだけ似ていると言う事だろう。

 

    「今日はお母さんが風邪引いてダウンしたから、形だけでもお母さんに近づきたいからですよ」

 

     珍しく秋子は風邪を引いてダウンしたので今日は休ませているが、長引くなら暫く仕事がきつくなる。

     ふと、髪型も良く見れば秋子みたく三つ編みにして右肩から流そうとしたのか長さが足りず、背中で揺れている。

     本当に今更だが秋子と名雪は似ている事が分かるが、秋子は今風邪でダウンしている為、秋名が親と言っても違和感が無い。

     さて、と秋名は呟いて続きをやる為に動き出し、名雪も同じように動き出した。

 

 

     その頃、秋子はベッドの上で久しぶりの休日を謳歌しながら休んでいた。

     仕事を休んでいる事が申し訳ない気持ちの方が強いのだが、秋名に強く言われて仕方なくの休暇である。

 

    「まぁ……偶には良いですね」

 

     とは言え、休んでいろと口が酸っぱくなるほど言われたのだが、やる事がないのも不安であった。

     秋子は仕方がなさそうに本棚から、血統辞典を取り出してベッドに横になりながら読み始める。

     調べるのは、先月のジャパンカップでシンボリルドルフの2着に突っ込んだ地方馬の血統。

     その地方馬の名は今年ダイオライト記念で秋子の所有馬を3着に下した馬――ロッキータイガーである。

     父ミルジョージは4戦2勝で重賞未勝利馬だが、その父がミルリーフなので日本が買った理由だろう。

     ミルジョージ産駒自体には既に中央重賞の勝ち馬が出ている。

     母系は地方の血統らしく頑丈な馬が多く、母父父にはフランスの名馬シカンブルが入っている。

     なので雑草系の馬とはとても言えないだろう。

 

    「うちの馬が負けたのは必然だったのかしら?」

 

     1月と2月のレースで3連勝をしての出走だったが、マグレで3着の感じもしてくる。

     ダイオライト記念3着の後は中京で行われたG�凝豎ぃ咾任魯船Д蝓璽侫奪� から放された4着。

     帝王賞に登録するもの、賞金額が届かなくて除外。

     盛岡競馬場で行われたG�轡沺璽�ュリーカップはカウンテスアップに突き放されて惨敗。

     このレースには安田記念出走馬のサンオーイが出走しており、久しぶりの地方競馬に出走だった。

     結局、秋子の所有馬は2月のA1クラスを勝ったのが最後にひっそりと引退していった。

 

 

     引き取る余裕は無かったので行き着く先は良くても乗馬、それとも研究用だろうか?

     家畜商に引き取られて肉になるかもしれないが、悲しいとかは言っていられない。

     この道に入った時点で覚悟しなくてはならない事だから。

 

    「出来る限り、引き取りはしたいんですけどね……」

 

     誰にとも無く、秋子は呟くとゆっくりと瞼を閉じて、ウトウトと舟を漕ぐ。

     すっかり、秋子は自分が風邪を引いていることを忘れて血統辞典を見る事を没頭してしまった。

     その後、しっかりと名雪と秋名から一緒に怒られてしまったのであった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ミルジョージ……アメリカ産馬で、とにかく地方馬の活躍が多い。
     注3:ミルリーフ……欧州の名馬に数えられる程の馬であり、3大レースを優勝している。
     注4:シカンブル……フランスダービーの勝ち馬であり、9戦8勝2着1回だった。
     注5:東海S……1985年から行われるようになった重賞であり、当時はウインターSだった。
     注6:チェリーフット……当時ウインターSだった頃の勝ち馬であり、父タケシバオー。
     注7:マーキュリーカップ……交流レースの1つであり、盛岡競馬場で行われ、距離2000m。
     注8:カウンテスアップ……当時のダート最強馬として降臨していた地方の名馬。
     注9:サンオーイ……大井から中央に挑戦した事があり、安田記念3着などがある。