ジェットボーイの2戦目。

     前走と同じ距離――1400mで行われる未勝利戦に駒を進める。

     ジョッキーも落馬負傷した騎手はまだ骨折が直っていないので、音薙騎手が続けて乗る事になった。

     1戦目は急遽の乗り代わりで馬の走り、性格などが掴めていない事もあったが、今回は調教時に乗ってもらっている。

     そのおかげで性格を掴めたと言っても過言ではない。

     ただ、レースになると性格が極端に変わる事もあるので、絶対にとは言えないので矛盾もある。

     ジェットボーイの性格は普段はのんびりしているが、レース中は他馬を抜きたがるようだ。

     調教中に5歳馬の後ろから追わせたところ、むきになって追いかけようとした事が多かった。

     勿論、押さえ込む事を教えているのだが、尻っぱねをして反抗している。

     この事は未勝利戦までには直そうとしたが、結局は不可能だと秋子の下に伝えられていた。

 

    「気性が悪い訳じゃないんですけどね」
    「レースでは前向き過ぎるのも困り者だな」

 

     別に悪い事では無いが、脚質の幅が狭くなってしまう事が危惧される。

     無理矢理、押さえると逆に入れ込んでスタミナ消耗が激しくなってしまい、 大差で負ける可能性も高い。

     秋子と秋名が考える理想な脚質は先行か差しであり、あまり逃げと追い込みは好まない。

     逃げだと前がハイペースになっても、そのまま走らなくてはならない。追い込みはスローペースになると届かない事が度々ある。

     そして、先行と差しは馬群に包まれてそのままというリスクがあり、どれが良いとは一概で言えない。

 

    「まぁ、走ってくれれば良いです」

 

     秋子は本音を語って、これ以上言う事は無いと言わんばかりにTV画面を見る。

     そして、レースは始まる。

 

 

     今回は12頭立てで前走より2頭頭数が増えている。

     その中には差し損ねて鼻差の2着になった馬が1番人気になっている。

     ジェットボーイは僅差で3番人気に支持されており、前走の逃げが評判だったのだろう。

     それと久瀬調教師のコメントで順調さが伝わっている事が作用していると言っても過言ではない。

     投票締め切り前には2番人気になり、締め切られた。

     1番人気は単勝2.6倍、ジェットボーイは単勝3.0倍となっている。

     この2頭の組み合わせは3連単、3連複以外は全て1番人気となっているが、未勝利戦なので波乱はありえる。

     ゲートインは前走と同じように入れ込む素振りも無く堂々と入る。

     そして、12番の馬が入った所でゲートが切られる。

 

 

     今回は少し手綱を扱いて先頭を取ろうとするジェットボーイと音薙騎手のコンビ。

     自分達より内枠にも逃げ馬がいるので、このように先頭を取らないと内には入れない。

     競り合わせて逃げても良いのだが、ハイペースになる可能性も高いので単騎での逃げを選択したようだ。

     残り800mの時点で2番手の馬には3馬身程の差を付けて、淡々と逃げており、息使いも余裕なのが手綱に伝わる。

     1番人気の馬は丁度真ん中辺りで馬群に包まれており、東京の長い直線に賭けているが分かる。

     そして4コーナーが終わる。

     前走は早めに抜け出した事で最後に差されてしまったので、まだギュッと手綱を握り締める。

     他馬は追いかけようとして、手綱を扱いて鞭を入れられて加速をしているが、音薙騎手はまだ我慢をしている。

     そして、目の前には東京競馬場にある最後の難関――高低差が2mある坂を駆け上る。

     数m駆け上った所で、馬群の中で脚を溜めていた1番人気の馬が放たれた矢のような勢いで上がってくる。

     ターフビジョンでライバル馬が上がってくるのを確認をした音薙騎手は、ジェットボーイの目の前で鞭をしならせる。

     ここで1番人気の馬とジェットボーイが馬体をガッチリと合わせて、1着を目指して競り合う。

     残り200m。

     2番手以降の馬も追い上げて来ているが、差はちょっと離れすぎて届かない位置の馬が多い。

     ジェットボーイは馬体を合わせられた事で、更に先頭に立つ気力を見せ付ける。

     性格をしようした騎乗でジェットボーイはグッと首差を凌いで勝利。

     秋子と秋名はTVを見て、歓喜を上げながら抱きつきあっている。

     バンバンと秋名は秋子の肩を叩いており、秋子は一瞬だけ顔をしかめるが直ぐに笑顔に戻る。

    「良かったな秋子」

     秋子の目元には一筋の涙がポロリと流れていた。

     これが水瀬 秋子が自分で見つけた馬の初勝利だった。

 

 

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     特になし。