イチゴサンデーが最初に出産すると他の繁殖牝馬も同調するように2〜3日置きに出産し、無事に全頭の出産が終了した。
「2人ともお疲れ様。まだ春休みが終わるまで3日程あるからそのまま働く?」
名雪はわざとらしく女の武器である上目使いを用いつつ、少しだけ首を傾げており、自分の武器を最大限に利用して最後まで2人を使う魂胆が分かる。
「オレ達の立場低いよなぁ」
2人は肩を大きく落としつつ、げんなりとした様子で嘆息を漏らしてしまうが、名雪は気にした素振りを見せなかった。
その頃、リビングでは秋子が受話器に向かって会話をしており、その口調は嬉しさが込み上げているのが分かるくらい声が上擦っている。
「おめでとう祐一君……いえ、これからは祐一さんと呼んだ方が良いですね」
電話越しで祐一に対する呼び方を変更する事を提案し、秋子本人はそれで決定したのか、秋子は既に定着させている。
「デビュー前に一度、戻ってくるんですよね? 分かりました、その時は壮大にお祝いしますので、楽しみにしていてくださいね」
流石に騎手デビュー前の祐一は多くの食事を食べられないが、秋子はキチンとその点を理解しているので問題にはならない。
「姉さんに電話代わりましょうか?」
秋名がタイミング良く、リビングに入ってきたので秋子は秋名の方を見ながら、祐一に話しかけている。
「……なんだ祐一か。そうか、合格したのか。おめでとうとだけは言っておく」
秋名の素っ気無い態度に秋子は口を挟もうとするが、秋名が照れている事が分かってしまう。
「祐一さんが今年デビューですね……姉さんの思惑通りでしょうか?」
先ほどの態度と打って変わって秋子の表情は祐一を心配しており、今でも騎手に進むのを反対しているようだ。
そんな訳で翌日には祐一は一時的にだが、Kanonファームに帰郷してきた。
「ふーん……騎手としてのスタートラインには立てたようだね」
あっさりと何の躊躇いも無く名雪は2人の事を彼氏としては否定しており、その事を聞いていた2人はガッカリと肩を落とす。
「えっと……アンテナよ。名雪を落とすなら頑張った方が良いぞ」
祐一は地方競馬育成センターという男ばかりの場所に居た為か、こうした馬鹿会話は昔より慣れた雰囲気に。
「まぁ、名雪を落とすなら牧場作業をあっさりとこなして、競馬に関して妥協しなければそのうち振り向いてもらえるだろうな」
ポン、と祐一は北川の肩を気安く叩いてから、ニヤリと口端を吊り上げて楽しそうに笑い、訝しそうに名雪がその様子を眺めていた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。