名雪は新たな繁殖牝馬――ヤマトノミオとホワイトウインドへの種付けが完了したので、続いて他繁殖牝馬の種付け相手を考える作業に。
宮藤にサイレントアサシンとエレメントアローを売却したので、6頭分の配合を考える必要がある。
だが、配合を考える時が牧場関係者の中では1番楽しみな時間であり、想像した配合から想像通りの馬が産まれた時は喜びもひとしおである。
実際に想像通りに産まれて活躍する可能性は低く、如何に計算して配合するかが大事である。
大手の牧場ほど運に頼った配合はせず、計算され尽した配合を心掛けている為、重賞馬の輩出数が中小牧場に比べて突出しているのが比べる必要も無い程。
名雪も出来るだけ大手牧場に追従する為に、配合論を少しずつ変化させる必要が出てきたと実感したのか、メモには多数の配合案が書かれている。
「うーん……今年の配合はどうしようかな?」
秋子よりはインブリードを多用している名雪とはいえ、安易に結果に繋がらないと分かっているので簡単に決定する訳にもいかない。
そして、名雪が考えた配合でインブリードを利用した繁殖牝馬は1頭のみ。
その繁殖牝馬は今年が最後の種付け予定となっているフラワーロックで相手はフレイズ。
97年度の配合は以下の通り。
ルリイロノホウセキ×スターオブコジーン。
イチゴサンデー×アフリート。
ミストケープ×ブライアンズタイム。
フラワーロック×フレイズ。
ブルーフォーチュン×ダミスター。
ワイルドローズ×ハートレイク。
それに、前日に種付けを行ったヤマトノミオ×ソウルオブザマターとホワイトウインド×サンシャインフォーエヴァーが内約。
ノーザンダンサー系との配合はフレイズとハートレイクのみだが、ハートレイクは欧州で人気種牡馬ヌレイエフの血を引いている。
他にはKanonファーム内では初のブライアンズタイムを種付け相手に選んだ事が挙げられるだろう。
サンデーサイレンスに次ぐ、人気種牡馬で大物産駒が輩出する可能性があるのがセールスポイント。
今回の種付けでブライアンズタイムとサンシャインフォーエヴァーの対決となってしまったが、特に意図がある訳ではない。
どちらかが成績良い産駒を輩出してくれれば良いだけで、成績で優先する訳でもないのだから。
そして、今年の配合相手を記したメモを秋子に見せると、名雪はテストが返ってくるのを待つような状況になってしまう。
それでも名雪にとっては、答えが無い計算式の解答がこれで問題無いかを確認してもらうのが楽しみな時でもあった。
「今回のインブリードはフラワーロック×フレイズのノーザンダンサー4×3のみね」
「うん。今回でフラワーロックは繁殖牝馬引退だし、最後ならインブリード狙いで攻めてみたよ」
「……あまりインブリードが濃い訳でも無いから、これで良いわよ」
「じゃあ、出産後はこの種付けを行う事になるから、先に予約しておくね」
名雪はそういうと、サイドボードの上に置かれている電話を取ってから、繋養牧場に電話を掛ける。
その結果は人気があるブライアンズタイム以外は予約を取れたが、現状ではブライアンズタイムの種付け株が余らない限り不可能に。
名雪も簡単にブライアンズタイムの種付けを行えないとは分かっていたので、代理案としてナリタブライアンを提示。
3冠馬としては未知な存在で、種付け料も手ごろな価格でブライアンズタイムの後継としては十分な魅力。
「なるほど……ノーザンダンサーの血も入っているし、種付けする価値はあるわね」
「ミストケープには出来るだけ流行血統がある種牡馬と種付けした方が後に繋がりそうだしね」
「じゃあ、ブライアンズタイムは種付け不可能になる可能性が高いからナリタブライアンを予約しなさい」
「了解だよ」
と、名雪は頷いてから再び繋養牧場に電話をして、今度はキチンとナリタブライアンの予約を取る事に成功した。
さて、今週の競馬はホワイトファントムが未勝利戦を脱出する為に出走する。
ここらで1勝して、夏前まで放牧しておきたい所だが成績次第では厩舎に置いたままになる。
そして、今回出走するのは中山芝2000m。
前走が京都芝2000mだったので、この距離は既に慣れていてもおかしくないのだが、まだ身に結びつかない。
徐々に成績は良くなっているが晩成特有のもどかしさがあるので、何時までも待てるものでもない。
だが、今回はいつもと違って後方からの競馬ではなく、前々からレースをして直線は何とか粘って6着と低人気では健闘した結果になった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:スターオブコジーン……ジャパンカップに出走し5着になった実績もある。
注2:ダミスター……父はミスタープロスペクター。