ヤマトノミオとホワイトウインドの種付けを行うために、名雪は馬運車に乗って繋養牧場に向かっていく。
まだ、去年種付けした繁殖牝馬は1頭も出産していない状況で、先に種付けが2頭から行う事に。
ヤマトノミオと配合するソウルオブザマターはアメリカから輸入された本年度の新種牡馬。
スーパーダービー制覇やドバイワールドCでシガーの2着に入るなど、実績面では一流の成績だが種牡馬としては未知の部分が多い。
テディ系という異系血統の為か手を出しにくい種牡馬であるが、逆に名雪は利点として活用しやすいと判断した経緯が。
ホワイトウインドはサンシャインフォーエヴァーとの種付けになり、芝路線である程度の成績を出しているホワイトウインドには良い相手。
サンシャインフォーエヴァーはヤマトノミオの父であるグランドオペラと似たような境遇で、種牡馬として成功しているブライアンズタイムが居る。
こうした血統の種牡馬は大成功か大失敗のどちらかしかなく、出来るだけ重賞勝ち馬を輩出しないと失敗のレッテルが貼られるのだから。
「水瀬さん、今年は何を付けるんですか?」
「ヤマトノミオはソウルオブザマターで、ホワイトウインドがサンシャインフォーエヴァーです」
「……確か、本年度からの新種牡馬でしたっけ?」
「はい、そうです。新種牡馬の割りに種付け料は安い方ですから、試すには丁度良いですので」
名雪は馬運車の運転手に質問された事を答えるが、話題を変えるために最近の競馬に関しての事を運転手と話して、道中は暇にならず済んだ。
繋養牧場では既に先客が居るのか、種付け施設では種牡馬が係員に誘導され繁殖牝馬に宛がっている所だった。
大抵の種牡馬は1日3回程が限度だが、期間を総合すると200頭前後と種付けしている計算に。
だが、これはサンデーサイレンスなど種牡馬成績が他馬よりも抜き出ている馬のみ。
他の種牡馬はせいぜい100頭集めれば良い方で、中には1桁の種付けという種牡馬も居るのだから。
「ソウルオブザマターはどうですか?」
「さすが、ドバイワールドCで2着になった実績を持つ馬って言うのが印象ですね。それが上手く伝わってくれれば走る仔も出すと思いますよ」
「なるほど。種付け数が増えれば重賞馬を出す可能性も高そうですね」
と繋養牧場ではまずまずの評価が与えられている様で、アベレージヒッターというよりもフルスイングのホームランバッターの方がしっくり来る評判。
サンシャインフォーエヴァーに関する評価は、やはりと言うべきかブライアンズタイムという存在と比べられてしまう。
血統自体は問題ないので、如何に芝馬として産駒を輩出するかが掛かっていると、評価されている。
「サンシャインフォーエヴァーの産駒は結構走りそうな気がするんですけどねー」
「ブライアンズタイムの様に如何に重賞馬を出すか次第じゃないですか」
名雪の言葉に対して従業員は自身から見た評価を下しているが、甘い評価をされるよりは筋が通っている。
そして、そんな会話を従業員と話していると無事に種付けは終了した様で、種牡馬が引き上げていく。
これで新繁殖牝馬の種付けは終了し、後は受胎を確認するのみでまだまだ安堵は出来ない状況である。
さて、今週の競馬はジュエルバレーが初の芝路線に参戦し、クラシックに出走出来るかを試す時となった。
そのレースは若葉Sと皐月賞トライアルの1つで、重賞では無いがそれなりの馬が皐月賞に出走する為に狙ってくる。
ダート路線からの転向なので、流石に人気は後ろから数えた方が早い10番人気である。
過去にはジェニュイン、ビワハヤヒデ、トウカイテイオーとクラシックで活躍した馬が勝利しているレースでもある。
なので、重賞では無いが活躍馬が輩出されるレースと認識されている。
今回の1番人気馬は弥生賞で3着に入ったサニーブライアンで、2番人気は水仙賞でタツマキマキマスカに敗れたマーベラスタイマーが続いている状況。
サニーブライアンのローテーションは一見すると、クラシックを目標にする狙うようなものではない。
若竹賞→ジュニアC→弥生賞→若葉Sと変則なローテーションで、近年でもここまで間隔を詰めるのも珍しい。
調教師曰く、使い込まないと馬体重が増え続けるらしいが、こうしたローテーションの為、他の馬にもチャンスが巡ってきたと言えた。
そして、レース結果は善戦を続けていたシルクライトニングが勝利し、サニーブライアンは4着が精一杯。
ジュエルバレーは芝適正が皆無だったようで、道中は押し通し続けていたが、芝のスピードに敵わず16着と大敗だった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:シルクライトニング……この時点では8戦2勝2着5回3着1回の馬。