ヤマトノミオがもがいて足掻く様にダートを駆けており、前に前に進もうとしているが、殆ど他の馬に抜かれていく。
食い下がらないようにまだ前に進もうという意志は垣間見られるが、既に抜き返す気力は持っていても身体がついていかない状況。
良い具合に5番手付近からレースを進めていたが、直線に向くとハイペースではないにも関わらず、交わされていったのだから。
今年は北海道スプリントCで1勝したのみで、レースレベルが低かった分押し切った印象も出てきてしまった。
「んー、引退レースだからもうちょっと頑張ってくれると思ったけど、12頭中10着かぁ」
「これで引退だけど、24戦8勝なら十分な成績と言えるかしら?」
「そのうち重賞が2勝だからな。繁殖牝馬としても期待しておきたい所だな」
主な勝ち鞍は1200m戦のみに集中しており、ガーネットSと北海道スプリントCの重賞2勝が光る。
1200mを超えた距離では惨敗が多く、ヤマトノミオは典型的な短距離馬として活躍してきた。
これだけの短距離馬なので繁殖に上がっても、芝ダートに関係無く種牡馬を選択出来るだろう。
ヤマトノミオは現代のスピード競馬に合った馬なのだから、繁殖牝馬としての期待は推し量れない期待感がある。
「何を付けるかが楽しみになりそうだよ」
「そうね。ノーザンダンサー系とのインブリードも可能だし、幅広く配合が出来そうなのは魅力あるわ」
「クイーンキラ自体が異系血統だったからな。配合の余裕があって助かったと言えるな」
ヤマトノミオの母はどちらかと言うとマイナー系であるハイセイコーが父の為、今の種牡馬とは種付けしやすい長所が。
父はヤマトノミオやアマゾンオペラの活躍で名を上げたグランドオペラ――今や種付け料150万とまずまずの人気種牡馬になっている。
その半弟には今年のジャパンカップに出走を予定しているシングスピールが居る血統なのだから、今の人気も頷けるだろう。
さて、そのグランドオペラはニジンスキーを父に持つ為、スピードとパワーを備えた欧州型でありダート産駒の輩出が多いのが特徴。
血統に反して芝重賞の勝ち馬は居ないが、潜在能力を考えると芝重賞馬を輩出してもおかしくない。
なので、ヤマトノミオは芝産駒を輩出する可能性を秘めているだろう。
こうしてヤマトノミオが引退した事でKanonファームの生産馬は世代交代が完了し、4歳馬のダンシングウイナーが唯一の古馬となる。
3歳馬は3頭おり、そのうちOPクラスはアイシクルランスのみという状況で、2歳馬の台頭に期待するしかない。
勝ち上がっているのは2頭だけで500万下からOPクラスに目指す事になるが、簡単に勝てるとは誰もが思っていない。
そんな訳で今週の500万下にはジュエルバレーが東京ダート1300m、ピクシーダンスが京都芝1400mに出走となっている。
そして、宮藤綾乃に売却したルビーレイ――サイレントアサシンの産駒が百日草特別――東京芝1800mに。
特にルビーレイが出走する百日草特別の方がメンバーは揃った状況で、1戦馬では厳しいかもしれない。
同じく新馬勝ちを果たしたクリスザブレイヴとサニーブライアンが居るのだが、特にクリスザブレイヴはノーザンテースト最後の大物と呼ばれる程の評判馬。
その評判馬を相手にしてどこまで立ち回れるかが問題であり、牝馬ながら4番人気に支持されている現状なのだから。
「いきなり、来年のクラシック候補とか言われているクリスザブレイヴと当たるとは思わなかったですね」
「ここでそれなりの結果を出せば、ルビーレイの来年には期待出来そうだがな」
秋子の所有馬ではないとは言え、生産したのはKanonファームなので、我が子を見守るようなものである。
そんな訳で先陣を切るのはピクシーダンスが出走する京都芝1400mからで、現在は前走の勝ちっぷりから2番人気に支持されている。
綺麗なスタートを切ったピクシーダンスは外枠からのスタートなので、勢いに任せて先行させていく。
そして、3番手付近に落ち着くと前を走っている逃げ馬を追い駆け過ぎない位置取りになっている。
入れ込んだ様子も無く悠々と馬場を駆けているが、ペースが早い状況なのでどこかで息を入れなければ最後まで持たない。
直線に入ると残り200mまでは3番手で粘っていたが、そこを過ぎると一気に交わされて、9着が精一杯だった。
「これは単純にペースが早すぎたのが原因でしょうね」
「新馬戦を勝利した時は逃げて勝利したけど、タイムは平均的だったからな」
この結果は仕方ない、と秋名はお手上げのポーズをしてしまい、次のレース――ジュエルバレーが出走する500万下の方に切り替える。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。