錦秋特別を勝利した事でダンシングウイナーは1600万下――準OPクラスに昇格。

     この勝利によって秋子は馬主席に居た他馬主から祝いの言葉を送られる。

     中には秋子が見知らぬ馬主も居るが秋子はそんな事を気にする事は無く、微笑を浮かべお礼を言いつつ小さく会釈する。

     例え、未勝利戦でも1勝の重みは非常に重く、そのため他馬主とはライバルの関係とはいえ祝言を送るのは当たり前なのだから。

     競馬社会は広いようで狭い世界なので、こうした小さな積み重ねが相手に好印象を与え、生き抜いていくのだから挨拶は欠かせない。

 

    「おめでとうございます。これでダンシングウイナーは準OPクラスですね」
    「ありがとうございます。元から期待していた馬なので、ここまで来てくれれば後は駆け足で上がって欲しいものです」

 

     秋子は見知らぬ馬主と談話をしつつ、菊花賞のパドックが始まるまで時間を潰す。

     そうでもしていないと人気面は劣るとは言え、久しぶりに生産馬がクラシック出走となったのに馬主が緊張していたのでは笑い話にしかならない。

     緊張を和らげる為とはいえ競馬話をしていれば、お互いに収穫のある部分があるのは確かなのだから。

 

    「アイシクルランスの菊花賞の自信はどれくらいですか?」
    「3割あれば良いと思っていますけど、上位陣が強いですからね。どこまで抵抗出来るかが問題でしょうね」

 

     アイシクルランスとの実績を比べる必要も無いくらい、ダンスインザダーク、フサイチコンコルドとロイヤルタッチの実績は抜き出ているのだから。

     主な実績がみなみ北海道Sだけのアイシクルランスでは奇襲を仕掛けないと勝てる可能性は低いが、正攻法で押し切って欲しいと願いもある。

 

    「おっと……そろそろ菊花賞のパドックですね。では私はこれで」

 

     そう言ってその馬主は、秋子に一礼をしてから秋子とは別の方向に向かって行った。

     その馬主の持ち馬は菊花賞に出走していないのだから。

     秋子は会釈を済ませると、名雪を連れて馬主席から京都競馬場のパドックに向かう。

     京都競馬場のパドックは他の競馬場と違い正円形となっており、中心には樹が植えられているパドックはここにしかない。

     正円形なので、馬の歩き方を角度からチェックしやすいという利点があるとも言えるだろう。

     既にパドック周辺には大量の観客が押し寄せており、パドックに近づけない者は観客席の2階通路際から眺めている者も多数居るくらい。

     これだけの人口密度によって、身に凍みる冷たい秋風を熱で四散させていると言っても過言ではないだろう。

     パドックは馬を身近で観察出来る1番の場所で、馬券を購入する者にとっては重要な場所であり、自身の目でしっかりと情報を得る為なのだから。

     そして、数分後。

     ゼッケン1番の馬から順次に各馬がパドックを闊歩し始めて、アナウンサーによって枠番、馬名と馬体重に現在の人気を読み上げられていく。

 

    「7枠13番アイシクルランス。馬体重は前走比−8kgで現在の人気は5番人気です」
    「前走の神戸新聞杯から馬体重を絞ってきましたが、研ぎ澄ました減量なので今回は体調が非常に良さそうですね」

 

     と、実況に紹介されたのが触発したのか、僅かながらアイシクルランスのオッズが変動した事を記しておく。

 

 

     そして、発走時間になりスターターが赤旗を振るとそれに合わせて、京都競馬場のG�汽侫.鵐侫 璽譴�演奏される。

     観客もそれに合わせて丸めた競馬新聞を手にして手拍子で、場内の一体感が高まっていく。

 

    「最後にダンスインザダークが入りまして、今第57回菊花賞のスタートが切られました」

 

     4頭が先頭を奪うように飛び出して、ひしめき合って暫く続くと思われたがセントライト記念を勝利したローゼンカバリーが逃げる格好に。

     ダンスインザダークは12番手付近で馬場の内側を走っている状況で、囲まれてしまっている。

     ロイヤルタッチとフサイチコンコルドは9番手辺りで位置をキープしており、ダンスインザダークの様に他馬からの影響が少ない位置に。

     1周目の観客席前を各馬が駆けていくと、騒然とした観客の歓声が響き渡り行く気を出してしまった馬が居たが、しっかりと騎手が手綱を抑えている。

     アイシクルランスはいつもより前の方を駆けており、普段よりも前で競馬をしても大丈夫と騎手は判断したのか、現在は5番手に位置する。

     奇襲の判断にも見えるが後ろに居るロイヤルタッチ、フサイチコンコルドにダンスインザダークを相手に何処から仕掛けるかが問題。

 

    「1000mの通過タイムは、60.2秒とやや平均ペースで進んでいきます」

 

     残りの距離は2000mもあるので、まだまだレースが動く雰囲気は無く 各馬が様子を伺っているに過ぎない。

     相変わらず、ローゼンカバリーが各馬を引っ張るように先頭を走っているが2番手とは大きく差を付けておらず、淡々とペースを刻む。

     先頭から最後方まで15馬身程しか差が無いので、思ったよりもスローペースでレースが進んでいく。

 

    「さぁ、残り1000mで菊花賞の覇者が決まります、最初に仕掛けるのはどの馬か!!」

 

     実況の言葉に呼応する様に、アイシクルランスが徐々に進出を始めて5番手から3番手に上がっていく。

     その反応に観客席から大きなどよめき声が聞こえてくるが、止まらないで一気に加速し始める。

     最終コーナーの直前でアイシクルランスはローゼンカバリーに代わって先頭を奪い、一気に先頭に踊り出る。

     後ろからはフサイチコンコルドとロイヤルタッチが追い掛けて来ており、ダンスインザダークは最終コーナー直前の不利で大きく下がってしまった。

     残り200m。

     早仕掛けをしたにも関わらず、アイシクルランスはフサイチコンコルドとロイヤルタッチを押さえ込み、未だに先頭で粘っている。

     馬場の中央部分で栄光のクラシック勝利がアイシクルランスの元で輝きそうになるが、アイシクルランスとロイヤルタッチの間を割ってきた馬が。

     その馬はダンスインザダーク。

     最後方まで下がりかけたにも関わらず、開かない内を捨てて外に持ち出して突っ込んでくる。

     残り50m。

     ゴール間際になりアイシクルランスも更に激しく鞭が入り、ダンスインザダークの追撃を押さえ込もうと必死に抵抗する。

     ダンスインザダークも春のクラシックが無冠だった悔しさを武器に更なる伸びを発揮。

     がっちりと馬体を合わさってゴールしたが、黄色と黒の縞模様の勝負服を着た騎手が鬱憤を晴らす様に激しいガッツポーズを披露。

     即ち、菊花賞はダンスインザダークが勝利し、アイシクルランスは惜しくも 2着に敗れたという結果が残った。

 

 

     戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。