北海道の短い秋が終わりに近づき長い冬が到来しようとする時期になり、どこの牧場も既に冬に備えた準備は終了しており、慌しく行動をする事は無い。

     もっとも重要なのは如何に放牧時間と調教時間を確保するかが大事で、屋内馬場を所持していない中小牧場には切実な問題。

     Kanonファームは除雪用の塩を馬場に撒いて、雪が解けてグチャグチャになった馬場で調教を行っている。

     だが、これだけでは大手牧場の運動量には決して敵わないので、ウォーキングマシンの導入を検討している最中。

     ウォーキングマシンは円型の機械で、各仕切りの間に馬を1頭ずつ入れて起動させると、後ろの仕切り板が馬を後ろから押すので運動に適している。

     ゆっくりと1時間程度歩かせるので、除雪が不可能なほど雪が積もった場合には有効活用出来るだろう。

     勿論、人が行う引き運動は今後も継続させて基礎体力作りを行わなければ、馬と人の信頼があっさりと途絶えてしまう。

     とは言え、ウォーキングマシンを導入するに従って、何処から資金を捻出するかがKanonファームの問題であった。

 

    「計画としては良いんですけど、今年は勝利数が少ないですから資金の遣り繰りがキツイですね」
    「今年は12勝で重賞1勝とOPが1勝だからな。確かに勝利数は減少だから得ている賞金も少ないな」
    「去年の方が重賞成績は良かったからね。それ比べると今年の収入は少なくても仕方ないだろうし」

 

     去年に比べると重賞勝利数は3勝も減少しているので、資金の遣り繰りが厳しい状況でもある。

     高額な機械なのでこれを導入する位なら、高額の種牡馬を種付けする事を選択しても問題にはならない。

     だが、先を見据える意味ではウォーキングマシンの導入は間違っていない選択である。

 

    「運動時間が増加するし、導入に関しては問題ないんだよね?」
    「そうね。どちらかと言うとクールダウン時に利用するのが良いと思われているのよ」
    「そうなると、利用方法が限られてくるな」

 

     Kanonファームは毎日長い時間をかけて引き運動を行っているので、ウォーキングマシンの存在理由が希薄とも言える。

     それでも運動後のクールダウンをさせる場合には重宝するので、役に立たないと言う訳ではない。

 

    「まぁ、クールダウンさせる時には必要になりそうだし、早めに購入しても良いんじゃない?」
    「……そうね、検討をしておくわ」

 

     秋子はテーブルの上に置かれている冷え切ったコーヒーを口に付けて、不味そうに顔を顰めてしまった。

 

 

     さて、今週の競馬はKanonファーム生産馬の3歳馬2頭がそれぞれ放牧明けとして出走。

     休養前のあじさいSを勝利したファントムロードが一気に600mの距離延長で、京都で開催される1600万下特別の大原Sに。

     もう1頭はユニコーンSで8着に敗れた以来のレッドミラージュが、東京ダート1300mの河口湖特別から復帰する。

     ファントムロードの方は距離延長が厳しいと思われているのか、どの競馬新聞も印を厚めの印を推す所は無い。

     逆にレッドミラージュの方はダート戦の成績がまずまず良いからか、それなりに印が集まっている状況。

     人気面ではハッキリと明暗が分かれて、後はレース結果が人気にどう及ぼすかが問題である。

 

    「レッドミラージュは勝てそうだけど、ファントムロードはどうかな?」
    「距離延長が600mもあるからな……やってみなければ分からないな」
    「他に適切なレースがありませんでしたからね。ここは叩き台としておくのが良いでしょう」

 

     この時期は短距離路線の1600万下戦は少ないので、何処かしらで叩いて置かないと出走時期がずれ込む可能性が。

     そんな訳で距離延長を承知で出走しているので、ここはある意味捨てレースに違いなかった。

 

 

     そして、東西の競馬場で開催されていた本日のレースが終了し、各レースの結果がTVに映し出されている。

     レッドミラージュが出走した河口湖特別は初の古馬との混合戦だったが、未勝利戦を勝利した時を思わせる走りで3勝目を上げた。

     まだ1600万下に昇格しただけだが、ダート戦らしからぬ走り――ロングスパートで差し切ったので将来性を見せ付ける結果に。

     ファントムロードは距離が長いと思われていたが、残り200mまで先頭に立っていたので、見せ場たっぷりのレース振りだった。

     最終的な着順は6着と掲示板には載らなかったが、初めての距離だと思えばこの結果も十分価値があるものだろう

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。