緑色に茂っていた木々の葉が少しずつ黄色く色づき、秋の到来が近い事を告げている。
夏の様に暑い日差しを感じられる日は少なくなり、時々冷たい秋風が吹き荒びて枯れ掛かっている葉が飛ばされる。
既に何処の牧場も短い秋の間に長い冬が訪れる事を見越して、飼い葉を刈ったりして冬に備えるのが常識なのだから。
Kanonファームでは既に刈り入れが終わっており、順調に育っていた青々しいオチャードグラスと赤クローバーの混播が採草地でロール状で転がっている。
「刈り入れはこれで終了ですね」
「ああ、雨が降る前に終わって良かった。しばらく天気は曇りが多い様だしな」
山が近くに聳えているKanonファームでは天気が非常に変わりやすく、刈り入れた牧草を1週間近く天日干ししなければならない条件が。
なので、天日干しも含めたこの1週間は天候不順にならない事を祈って、毎日空を見上げていたのだから、苦労が報われた瞬間でもあった。
牧草を育てている場所――採草地にはロール状にした牧草が麻袋に包まれた状態で転がっている。
「失敗していたら飼料を購入する羽目になっていましたので、今回も成功して良かったですよ」
「購入すると結構費用が掛かるしな。だが、私としては輸入飼料を購入するよりも自家生産牧草の方が安心出来るな」
基本的に何処の牧場――繋養頭数の多い大手を除くと採草地で牧草を育てている位、輸入飼料の値段は高いのだから。
なので、毎年この時期の採草地はロール状になった牧草が所々で見られ、ある一種の名物に近い物が見られる。
「まぁ、これで今年の冬は乗り切れるでしょうしね」
「あれなら十分持つだろう」
秋子と秋名はリビングの窓から見える牧草ロールを2つ眺めながら、安堵の胸を撫で下ろしていた。
秋が近づいた事で各陣営に所属している馬が帰厩して、休み明け初戦のレースに向けてトレーニングセンターが活性化している。
特に春のGⅠ馬が復帰レースに向けて最初の調教を行う時期で、競馬記者が調教師や厩務員からコメントを貰って新聞や雑誌に記載。
主に注目されているのは春クラシックが無冠だったダンスインザダークにスポットライトが宛てられている。
皐月賞は流行感染症で回避、ダービーはゴール直前にフサイチコンコルドに強襲されて2着だったのだから。
今年のクラシック路線は故障や直前回避などが多かったので、秋のGⅠ路線では逆に出走馬の質が上がると見られている状況。
スプリングS勝利後に故障したバブルガムフェローなどが復帰すると言われているのだから。
「そういえばバブルガムフェローも復帰するんだったね」
「すっかりと忘れていたが、どう見ても強い馬なのは間違いないからな」
「春クラシックの開幕時、実力はNo1と言われていましたけど、骨折明けではどうなっているんでしょうね?」
「能力が落ちたと言う事は無さそうだし、復帰戦次第で評価を改めた方が良いんじゃない」
バブルガムフェローのローテーションは現時点では不明なので、何処に出走するか次第で評価は変わるだろう。
3人としてはこれ以上神戸新聞杯に春クラシック路線で一躍した馬が出走しない事を願うしかなかった。
さて、今週の競馬はダンシングウイナーが新潟芝1400mの飯豊特別――1000万下に出走。
前走の500万下は長期休養から3戦目で無事に勝ち上がった実績を買われて、今回も1番人気に支持されている。
前走から400mも距離を短縮されるが歳時に千両賞を勝利しているので、距離実績には殆ど不安が無い。
そのため、競馬新聞は厚い印――◎を5つ推している程、実力が抜き出ていると思われている様だ。
「圧倒的な人気ですね」
「不安と言える部分は1000万クラスでも通用するかどうか位だしな。私の目論見だと問題は無いな」
「うん、わたしも大丈夫だと思うよ」
圧倒的人気な事は殆ど不安が無い様で、3人はTV画面に映るダンシングウイナーのゲート入りを眺める。
僅かにダンシングウイナーがゲート入りを拒むが、2回目にはキチンと入ってチャカつく事無くジッと待機している。
最後に8枠14番の馬が入って、スタートが切られた。
ダンシングウイナーはやや立ち遅れたが、持ち前のスピードで最後方からのレースにはならず、10番手辺りのポジションに。
一切、レースの早い動きは見られず、なだらかなペースに落ち着いたまま各馬が道中を駆ける。
逃げ馬が居ない為か平均ペースでレースが進んでおり、1400m戦とは思えない程単調な流れになってしまった。
前走の1800mをそれなりのペースで駆けて勝利したダンシングウイナーの騎手は早いペースになると思っていたのか、少しずつ進出させていく。
外に持ち出して一気に突き放す訳ではなく、ゆっくりと上がって前方を走っている集団を追いかける。
しかし、先頭を走っている馬はここでペースを上げて、一気に他の馬を突き放し急激にペースが乱れてしまう。
そのため、最初に仕掛けたダンシングウイナーは遅れを取らない様に更なる仕掛けで先頭を追いかける羽目に。
既に先頭を走っている馬は余裕のある走りで2番手以降の馬に3馬身程の差を付けて、悠々と最終コーナーを回っている。
外から必死にダンシングウイナーの騎手が鞭を入れて追いかけるが、後方から進んだ事と道中のペースが早くなったのが仇に。
結局、圧倒的人気に支持されながらダンシングウイナーは5着までが精一杯だった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。