10月6日。

     この日は競馬ファンにとっては記念日になるか、地獄を見るかになるだろう。

     そう、今日はシンボリルドルフが凱旋門賞に出走する日であった。

     競馬ファンはワクワクしながらTVのチャンネルを合わせて、夜更かししている事だろう。

     明日、会社に勤める人で競馬ファンは大変だろうが、それでもこのレースは絶対に見逃せないだろう。

     勿論、秋子もTVで観戦するために夜更かしして見るつもりだし、秋名も見逃せないと言って見る気満々。

     いつもだったら秋子と秋名はこの時間には就寝しているので、今日は久しぶりの夜更かしと言える。

     因みに祐一と名雪は既に夢の中に落ちているので、この場にはいない。

     そのためかは分からないが、リビングのテーブルにはウイスキーの瓶とつまみのサラミがドンと置かれている。

     このウイスキーは高級品ではないが、滑らかな口当たりが秋子のお気に入りであり、グラスに注いで飲み始める。

     秋名も煙草を咥えつつ、TV画面に映るCMを見ている。

 

 

     現地時刻17時30分――日本時間で午前0時30分からレースは始まる。

     今年のメンバーは前年の凱旋門賞の覇者――サガスが出走しており、2連覇を期待されている。

     アレッジド以来の連覇達成が見られるかとフランス市民は待ち望んでいるらしく、日本馬の優勝は誰も想像していないようだ。

     とは言え、アレッジドは生産地アメリカで調教はアイルランドなのでフランス馬とは言えないだろう。

     だが、実力のある馬はどこの生産地だろうがキッチリと賞賛される物。

     もしもだが、シンボリルドルフが優勝したらフランスでも賞賛される事は間違いなくあるだろう。

     因みにシンボリルドルフの人気は15頭立て5番人気。

     1番人気は前年の覇者サガス、2番人気はそれぞれ3歳牡馬と牝馬が分け合っている。

     3歳牡馬――シュメルは前走のパリ大賞典を勝っている。

     3歳牝馬のコゾナはG�兇里濔〕�をしている。

     ただ、G�気錬加紊硲鈎紊�あるのみなので善戦はするタイプだろう。

     そして3番人気は今年コロネーションCでG�祇�覇を果たしたレインボークエスト。

     4番人気にはサンタラリ賞の勝ち馬――3歳牝馬フィトナ。

     それに続いてシンボリルドルフが人気となっており、実績だけならルドルフでも上位なのは確か。

     ただ、初の欧州競馬で実力を完璧に出せるかと言われれば否であり、その事を考えるとこの人気は妥当。

 

 

     TVではパドックシーンが映されており、ルドルフは落ち着いて周っている。

     日本と違い、入場BGMは無い。

     白いゼッケンに数字周りだけ黒い部分があり、白い数字で8と書かれており、その下に馬名がある。

     ヘルメットは日本と違い、デザインできるので勝負服に合わせて、緑に赤いタスキで同じデザイン。

     こうやってゼッケンを見ると、この場所にいるだけでも凄い事が分かる。

     多数の日本人が観戦に行っているようであり、TV画面に所々と映っていた。

     さすがにシンボリルドルフと同じ勝負服を着て、観戦している人物はいないなので秋子はホッと溜息を吐く。

     これを見るのは日本だけで良いと思っていたので、フランスでは浮いてしまうのは確実。

 

    「落ち着いていますね」
    「そうだな……これなら馬券勝負したいな」

 

     馬体は艶が出ており、キビキビと歩いているが、欧州馬の馬体には敵わないと思えるほど馬体の幅が違う。

     ルドルフも一応、欧州競馬に合うような馬体にはなっているが発展途上と言った所。

     ただ、調教タイムは悪くは無いようだし期待は出来る、と秋名は呟く。

     問題といえばステップレースが使えなかった事が、問題と言えば問題である。

     暫くTVを見ているとカチャリ、とドアが開いた音が聞こえたので2人は振り向くと、名雪が眠そうに眼をこすっていた。

 

    「寝れないの?」
    「うん……」

 

     名雪は馬の縫いぐるみを抱きながら、たどたどしく秋子のもとに歩いていく。

     よいしょ、と名雪は言いながら秋子の膝の上に座り、馬の縫いぐるみをギュッと抱きしめる。

 

    「えへへー」

 

     名雪は笑いながら、秋子を見上げており、秋子も嫌ではないので名雪の柔らかい髪を撫でる。

     これが終わったら寝るのよ、と秋子は釘を刺しておく事を忘れない。

 

    「うん」

 

     名雪はそう言うと、TVを集中して見始める。

 

 

     そして、結果は大惨敗とも言えるし、健闘したとも言える微妙な着順。

     15頭立てで4着となり、評価しにくい結果なのだが負けた事は事実。

     道中の動きは悪くなかったし、放されるという事も無く順調に直線まで持ったが、直線に入ると突き放された。

     なんとか、数頭を交わして4着に雪崩れ込んだ感じであり、先頭に立つ事は一度も無かった。

 

    「……残念だったな。それと降着か」
    「これが、凱旋門賞のジンクスでしょうか?」

 

     1着馬レインボウクエストは2着馬のサガスが1着降着したからの繰り上がり優勝であり、サガスの連覇は阻止された。

     ルドルフの負けは仕方が無いとして、1着で入着したサガスが降着するとは思わなかった。

     子供の名雪にはどのようにこの凱旋門賞が目に映ったかは秋子には分からないだろう。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:サガス……前年の凱旋門賞馬であり、3年連続挑戦している。
     注2:シュメル……この年のパリ大賞典馬であり、父エルマナムー。
     注3:パリ大賞典……凱旋門賞が出来るまでは、フランス最高峰のG�気世辰拭�
     注4:コゾナ……マルレ賞の勝ち馬であり、父クリス。
     注5:コロネーションC:戴冠の意味を持つG�気任△蝓�距離2400mで行われる。
     注6:レインボークエスト:ブラッシンググルームを父に持ち、この年の凱旋門賞馬。
     注7:サンタラリ賞……ロンシャンで行われる牝馬2000mのG��
     注8;フィトナ……この年のサンタラリ賞の勝ち馬であり、父クリス。