ファントムロードとルビーロウは共に敗れたが、それぞれ課題らしいものを見出して次走に繋げるような結果だった。

     1000万下から再びOPまで上り詰めなくてはならないが、重賞勝ちがあるスギノハヤカゼから大きくタイム差が無かっただけでも収穫がある。

     特にルビーロウは1200mでも走れると言う事を見せ付けたので、距離の選択幅が広まった事は歓迎されるだろう。

 

    「ルビーロウの方が距離適正は広いみたいだな」
    「父がルションですからね……距離の幅がファントムロードとは違うみたいです」

 

     ファントムロードの父アレミロードは中距離から長距離で活躍していたが、産駒は総じてマイルから中距離と幅広く活躍。

     それに比べるとファントムロードは短距離――1200mで2勝挙げたが、1400mでは直線で止まってしまった不甲斐ない結果が。

     なので、現状はルビーロウの方が距離適正の幅が広いと言う事で秋名の推測が正しいだろう。

 

    「今年はまだOP勝ちが無いからそろそろ勝利して欲しいんですけどね……現状の面子では厳しいでしょうか?」
    「ヤマトノミオが札幌スプリントCに出走するまで無理かもしれないな。が、下半期になればOP特別は勝てる馬が居ると思うがな」

 

     秋名はスッパリと秋子の願いを切り捨てつつも、秋になれば期待出来ると言う。

     現在は500万下のアイシクルランスやまだデビュー前の2歳馬が控えているので、望みは残されている状況。

     一応、下半期になればOP特別が勝てるかもしれないと言える馬が居る分はまだマシだろう。

     多くの中小牧場では未勝利で終わる事もある馬が多く、Kanonファームは間違い無く手札が残されている状況なのだから。

 

    「名雪。そろそろ2歳馬の馬名は決定した?」
    「うん、決定したよ……そういえばまだ言ってなかったね」

 

     名雪はサイドボードの上に置かれていたメモ帳とボールペンをを手に取り、それぞれの馬名を記していく。

     分かりやすく父と母の馬名と一緒に書かれていくメモには、今年デビューする4頭分の馬名が書かれて名雪から秋子に手渡された。

     ホワイトファントム……メジロデュレン×ファントム。

     タツマキマキマスカ……リヴリア×フラワーロック。

     ピクシーダンス……サッカーボーイ×エレメントアロー。

     ジュエルバレー……ウインドバレー×ルリイロノホウセキ。

     1頭だけ際立って目立つ馬名だが、最近の競馬協会は珍名馬でも何も問題無く通すので、タツマキマキマスもあっさりと審査を通過するだろう。

 

    「名雪が考えた馬名にしては珍しいわね」
    「わたしだって時々は珍名を付けたくなるよ。イチゴサンデーは食べ物からだしね」

 

     クスッ、と厭らしさの無い表情で秋子は笑みを浮かべつつ、馬名申告の為に馬名登録申請書をサイドボードの引き出しから取り出す。

     馬名登録申請書は秋子の手によって流暢な文字で記入し、最後に抜かしが無いか丹念にチェック。

     不備が無い事を確認すると秋子はFAXを起動させて、サッサと競馬協会に送ってしまう。

 

 

     今週の競馬はヤマトノミオが名古屋ダート1400mで開催されるかきつばた記念に出走。

     名古屋競馬場は中央と地方を含めて日本で1番直線が短く194mしか無く、1周距離も1100mと小回りが極まった競馬場と言える。

     そんな競馬場なので外枠の馬が良く穴を開ける事で有名で、7−8の枠連が人気薄の場合は良く売れている。

     さて、ヤマトノミオは近2走の結果は6着が続いているので、あまり人気になっておらず、12頭立てで8番人気となっている。

     距離が長い事も配慮すると、この人気が妥当だと思われているようだ。

 

    「やっぱり人気が無いですね」
    「まぁ、この2戦は惨敗を繰り返していたから仕方ないだろう」
    「情けないレース振りが続いていましたからね。ここで良いレースを見せてくれないと北海道スプリントCでは期待出来ないでしょうね」

 

     そんな事を2人は話しながら、ゲート前で輪乗りしているヤマトノミオの様子をTV越しで眺めている。

     レース時間になると各馬が誘導員に牽かれながら順調にゲートに入って、ヤマトノミオが7枠10番に収まり、最後に8枠12番の馬が。

     そして、各馬綺麗なスタートを切り砂煙を立ち上らせながら、苛烈な位置争いを演じている。

     ヤマトノミオは外側の中団からレースを進めてコーナーを回る際、外に弾かれない位置取りをしている。

     とは言え、小回りに短い直線、外枠と言う悪循環が3つも重なった状況ではコースロスも含めて上がって行かなければならない。

     ヤマトノミオは長い脚が使える訳ではなく、一瞬の切れが身上なので仕掛け所を間違えると前が届かないし、惨敗する可能性も秘めている。

 

    「前は早いですし、3コーナーと4コーナーの中間辺りから仕掛けた方が良さそうですね」

 

     秋子はそう独白して、TV画面から視線を離さずに騎手の動きをしっかりと見極めようとしている。

     実際にヤマトノミオの騎手が仕掛けたのは、3コーナー直前から外に持ち出して距離損を承知に徐々に進出させていく。

     9番手から6番手に上がり、ヤマトノミオの様に大外から強襲する馬は他に居なかったようで、遠心力で外に膨れるが勢いは止まりそうも無い。

     後は前に居る5頭の馬を捕らえるだけだが、内で脚を溜めていた馬と大外から強襲したヤマトノミオではスタミナの残量に違いが。

     200mにも満たない直線距離でスタミナは保つと思われたが、大外回しが響いたのか1頭を交わしただけの5着に終わった。

     だが、1着馬との差は0.3秒と大きく離された訳でもなかったので、北海道スプリントCに向けて十分な結果と言える。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。