4月15日。

     この日の天候は全国的に春模様で、好天が1日中続くと天気キャスターがにこやかな表情でマイクを所持ながら、視聴者に伝えている。

     本州では既に桜が満開に咲き乱れており、春風に覆われて花びらを幻想的に舞い上げている。

     春の麗らかさは日高地区でも広がっており、青々とした牧草をサラブレッドが食んで、春の息吹を感じ放牧地の風を切る格好で駆けているサラブレッドも。

     冬の過酷な時期に比べると長閑で牧歌的な雰囲気を醸し出しており、見る者を虜にさせる魅力がそこにはあった。

     そんな中でKanonファームは牧場作業を行っている最中で、主に厩舎内から箒で通路の汚れを掃く音が聞こえてくる。

     馬房内の掃除は既に完了しているのか、綺麗に敷き詰められた寝藁の匂いが風に乗って厩舎内に広がる。

     額から流れ落ちる汗を拭いつつ、一息吐く名雪の姿が見受けられた。

 

    「……うし、今日はこれでOKかな」

 

     軽く厩舎の通路を見渡して、寝藁や飼い葉などが落ちていない事を確認する名雪。

     そして、塵が1つも落ちていない事を確認し終えると、手に持っていた箒を用具置き場に持っていく。

     飼い葉と飲み水は放牧中の馬を厩舎に戻してから与えるのが1番良いので、2つの桶――飼い葉桶と水桶は空っぽのまま壁から吊るされている状況。

     名雪は軽く腕を伸ばしてストレッチを行ってから、厩舎から家に向かっていく。

     機敏な動きで家に向かっており、早足で歩いているのは本日のレースに11ヶ月振りのダンシングウイナーが復帰するからであった。

 

 

     本日の競馬は阪神でマイラーズC、中山では障害レースとしては最高潮の1つである中山グランドジャンプが。

     後者は特に数少ない障害G�汽譟璽垢如�海外馬の遠征が盛んに行われている程、高額の賞金が魅力となっている。

     特にオーストラリア勢の実力は現状の日本障害馬を軽く凌駕するので、初期開催のジャパンカップを想起させてしまう。

     まぁ、どちらの重賞レースも500万下から復帰するダンシングウイナーには現状では関係無いレースに過ぎない。

 

    「流石に11ヶ月振りの出走だと人気は最低人気だね」
    「こればかりは仕方ないけど、最近は調教施設が年々レベルアップしているから一発を開けるかもしれないわよ」
    「でも、オッズが127倍って殆ど勝ち目は無いと思われているからなぁ。厳しいのは変わらないと思うよ」

 

     名雪は諦めを滲ませた表情で秋子に自分の考えを述べるが、口調は落ち込んでいるようには聞こえない。

     本心では人気よりも結果の方が大事だと分かっているので、わざと人気が無くてガッカリしているようだ。

     乱雑にテーブルの上に置かれている競馬新聞でも印は1つも推されていない状態で、指針となるが調教師のコメントと調教タイムのみ。

    “故障明けでもないし、放牧先でもしっかりと調教は行っていたから馬体重も増加しているし去年と比べ物にならないくらいパワーアップしているよ”

     と、太鼓判を推されたコメントが掲載されて、調教タイムはウッドチップでラスト1ハロンが12.3秒と好調を示す。

 

    「印は無いのは仕方ないけど、好調で送り出した調教師の手腕は賞賛しても良いな」

 

     まだ馬体重はベストには程遠いが、それでもキッチリと絞れた所だけは伺える。

     見たところ6割か7割くらいの仕上がりだが、長期休養中もキチンと成長して居たので馬体重は増加し、3歳時のベスト体重ではあてにならない。

     つまり、今回の出走はベストを計るためでもある。

     3番のゼッケンを身に着けながら、入れ込む様子も無く地下道へ向かっていくダンシングウイナーの姿がTVに映し出された。

 

 

     レース開始時間になり、各馬が順調にゲートの中に入っていく。

     ダンシングウイナーは一瞬だけ気難しがる素振りを出してしまうが、すぐさまゲート内に収まる。

     最後に大外――8枠12番の馬がゲートに収まり、数秒後に独特のゲートオープン音を響かせてスタートを切る。

     ダンシングウイナーは出遅れる事も無く無事にゲートを出たが、僅かに行き脚が遅れたのか好位を奪うには至らない。

     そのため、先行――3歳時に多用していた脚質ではなく中団からレースを進める事に。

 

    「ちょっと後ろからだけど大丈夫かな?」
    「……落ち着いたペースで前が引っ張っているし、ちょっと危ないわね」

 

     先頭から最後方までおよそ10馬身程の差が無く、窮屈な格好で走っているためゴチャゴチャした集団が結成されていた。

     残り600m。

     ダンシングウイナーは徐々に進出しようと企むが、前で壁になっている馬を捌くのに一苦労。

     残り400m。

     一瞬の間、前が開いたのか狭い隙間に馬体をこじ入れて、一気に進出させる。

     8番手から5番手に上昇したダンシングウイナーの前には壁と呼べる様な馬は一切見当たらないので、後は最後の最後まで脚が持つかが大事。

     既に最後の難関である直線の半ばにそびえる坂を駆け上がっている最中だが、推進力は少しずつ落ち込んできている。

     そして、前を走る4頭には届かなかったが11ヶ月振りとしては十分な5着と言う結果を出したダンシングウイナーであった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。