4月になり、Kanonファームの放牧地外れにある木々から新緑の芽がいくつも見られる様になったので春の息吹が到来した事が告げられる。

     Kanonファーム生産馬が食む牧草も雪解けと共にブルーグラスやホワイトクローバーが芽を覗かせている。

     すっかりと、春の息吹を感じられる時期――4月になったので、何処の牧場も産まれた仔馬が母馬に寄り添って一緒に放牧されている光景が。

     そして、繁殖牝馬に種付けを行う時期でもあり、多くの牧場が馬運車に繁殖牝馬と共に仔馬を載せて種牡馬が繋養されている牧場に連れて行く。

     Kanonファームではブルーフォーチュンの種付け相手――オジジアンを目的に繋養牧場に向かう。

     オジジアンはアメリカでG�気鬘馨,靴診呂如▲�ラシックは1つも勝利していないが、2歳時はフューチュリティSで9馬身差の圧勝劇を演じた実績。

     オジジアンの父はアメリカ競馬でクラシック2冠達成したダマスカスで、数少ない直系を支えている状況。

     最近では94年のセントウルSを古馬に混じりながら勝利したエイシンワシントンを輩出した位。

     なので、種付け料もそれ程高額ではなく、お手軽価格の種牡馬として利用しやすいので名雪が選択した理由でもあった。

     何よりも流行な血統を一切持たない為、ノーザンダンサーの3×3を持つブルーフォーチュンとはアウトブリード配合が発生する。

     これ以上濃くなる可能性が高い血統を異系であるテディ〜ダマスカス系で薄めて、血統の行き詰まりを抑える為でもある。

 

    「ブルーフォーチュンにオジジアンを種付けさせるとは思わなかったわ」
    「そう? ダート馬なのにエイシンワシントンが芝重賞を勝利しているし、嵌れば芝馬を輩出すると思うよ」

 

     名雪は小さく首を傾げて、秋子の発言に対して疑問符を浮かべてしまっている。

     オジジアン産駒はどちらか言うと芝ダート兼用で、重賞では芝の方が好成績を出すのが特徴。

     その事を名雪に指摘されると秋子は納得したようで小さく頷き、他の種付け案を聞く為に先を促す。

 

    「イチゴサンデーにはトニービンを予定しているけど、出来ればシンジケートの余勢株を購入してもらいたいな」
    「簡単に無茶を言うわね……まぁ買えなくは無いだろうし、何も問題は無いわ。トニービンだとクロスが発生する筈だけど大丈夫かしら?」
    「グレイソブリンのクロスがうすーく発生する程度だし、デメリットは殆ど無いと思う」

 

     殆どアウトブリード配合に近い事を秋子に示すように、名雪は手書きの当配合――トニービン×イチゴサンデーの血統表を見せる。

     分かりやすく箇条書きしてあるそれは、ハイぺリオンの4×5とグレイソブリンの6×7がスパイス程度の味付けがなされている事を示す。

 

    「確かにこれくらいのインブリードならば、デメリットは無いに等しいわね」

 

     名雪が書いたトニービン×イチゴサンデーの配合メモを覗きながら、デメリットが発生し難い事を秋子は確認。

     続けて名雪が紹介する配合は以下の通り。

     サイレントアサシン×タマモクロス……グレイソブリンの4×7あり。

     ルリイロノホウセキ×マルゼンスキー……ノーザンダンサーの3×4あり。

     エレメントアロー×エルセニョール。

     ミストケープ×ライスシャワー。

     フラワーロック×ミシル。

     ワイルドローズ×ポリッシュネイビー。

     それにイチゴサンデー×トニービンとブルーフォーチュン×オジジアンが今年の種付け相手となる。

     高価格に分類される種牡馬はイチゴサンデーの配合相手であるトニービン位で、他の種牡馬は低価格に抑えられているのが多い。

     と、今回の内訳はインブリード配合が3頭でアウトブリードが5頭となっている。

 

    「名雪はどちらかと言うとインブリードを好む傾向かしら?」
    「うん、そうだね。流石に濃いインブリードは使いたくないから味付け程度の薄さが好みだね」

 

     秋子はアウトブリードを好むのに対して、名雪は逆にインブリードを好む傾向がやや強い様で安定志向の秋子よりも博打志向の様だ。

     名雪が自分なりに結論を出したのがインブリード配合で、秋子はその事に関しては口を出す必要が無いだろう。

 

    「まぁ、後は種付けが上手くいく事に期待するだけだね」
    「それで受胎が1回で済めば、今年の出産と種付け業務は全て終了となるわね」

 

     まだ安堵感を漏らす訳にもいかないが、2人の表情は少しだけ緩やかに笑みを浮かべており、ホッと一息つけたのが伺えた。

 

 

     そして、ブルーフォーチュンの種付けを行うために養繋牧場へ向かって行った秋名が帰宅。

     親指を突き上げて、ブルーフォーチュンの種付けは無事に成功した事を示し、後は受胎確認の日を待つだけであった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:オジジアン……馬名の由来はオーナーが日本人の“オー、外人”がこのように聞こえた為。
     注2:エイシンワシントン……この時点ではまだ重賞はセントウルSしか勝利していない。
     注3:エルセニョール……アメリカ産馬としては珍しい、7歳までタフに走り続けた。
     注4:ミシル……93年のジャパンカップに出走した経緯あり。
     注5:ポリッシュネイビー……馬名の意味はポーランドの海軍。