ヤマトノミオが出走した黒船賞は6着と惨敗だったが、1400m戦だった事を考えると幾分かマシな結果と言える。
結果だけで見れば掲示板にも載っていない6着は惨敗とも言えるが、1着馬との差は3馬身近くで、タイムも大きく離された訳でもない。
掲示板に載った事が5着の1回だけだったので、殆ど惨敗していた頃に比べると許容範囲だろう。
ダートが深い最内からのスタートが響いた事もあるので、今回の結果はかきつばた記念に向けて、それなりの見所を見せたのだから。
そんな訳で競馬新聞には黒船賞の詳細が掲載されており、ヤマトノミオの主戦騎手が話したコメントは以下の通り。
“距離と内枠が響いたけど、前より1400mに関してはマシになっているから、次走のかきつばた記念では楽しみだと思うよ”
と、距離の不安が無くなってきたコメントが隅に掲載されているが、勝ち馬の騎手コメントに比べると、扱いは低いが秋子にとっては頼もしい言葉。
「1400mで良いコメントを聞いたのは初めてになるか?」
「そうでしょうね。今までは長いと言われていましたから、今回のコメントはガラリと一変したのが分かりますよ」
「まぁ、この1戦で1400m戦が得意になりましたと言われても信頼し難いし、次走のかきつばた記念で見極めた方が良いね」
名雪はあまり過信していないようで、次走の結果次第では、と言いたそうに目を細めて競馬新聞のコメント欄を眺める。
名雪の言葉に秋子と秋名は同意しており、2人ともこの1戦だけではまだまだ信用し難いのは名雪と一緒だったようだ。
最近はようやくダンシングウイナーの復帰目処が立ち、長期休養で増加した馬体重もキッチリと絞れてきている。
筋肉質になった馬体はトモと胸に付いた筋肉が一際目立つ立ち姿で坂路を駆け上がっていくシーンは迫力満点。
さすがに復帰初戦から快勝は厳しいに違いないので、現在は丹念に乗り込まれてレース勘を取り戻すのを優先されている状況。
調教タイムは徐々に早くなっており、最近の坂路ではラスト1ハロンは13.8秒と仕上がってきているのが伺える。
競馬新聞では大きく取り上げられていないが、復帰予定レース名が掲載されており、4月15日の中山芝1600mの500万下が予定と掲載。
「まずは掲示板に載るのが目標だな」
「そうなりますね。さすがに復帰初戦から勝てる可能性は低いですし、様子見となるんじゃないですか?」
秋子は初戦の結果は気にしない事にしたようで、まだ出走まで日にちは空いているが随分と余裕のある表情。
1年近く――正確には11ヶ月振りの出走となり、これだけの長期休養であっさりと勝利した馬は滅多にお目に掛かれない。
例外中の例外としては1年振りの出走で有馬記念を制したトウカイテイオーが居る。
ダンシングウイナーにそこまでの実力があれば勝利する事は可能だと思われるが、現状では厳しいだろう。
今週の競馬にはレッドミラージュとアイシクルランスが500万下に出走。
レッドミラージュは阪神ダート1400mに。
アイシクルランスは前走から200m距離が短縮した山吹賞――中山芝1800mの方に出走。
どちらも期待したい所だがレッドミラージュは初の阪神で、アイシクルランスの方は距離短縮の影響が出るかが争点。
「アイシクルランスには期待したいかな」
「前走勝ち上がった事でアイシクルランスの勢いは付いただろうし、ここを勝利してくれればクラシックに出走可能になるな」
とは言え、500万下に在籍中のアイシクルランスは山吹賞を勝利したとして、OPクラスに昇格するだけで絶対にクラシックに出走可能な訳では無い。
そのため、ここを勝てば出走可能になる確率が上昇するだけで、確実に出走権利を得たければOP特別を勝利した方が手っ取り早いのだから。
そんな訳でレース開催時間に。
レッドミラージュが出走する500万下はこれと言った相手がいないと判断されたのか、圧倒的1番人気に支持された状況で無事に勝利。
これで4戦2勝となり、無事にOPクラスに昇格。
そして、アイシクルランスが出走する山吹賞に。
こちらの方は前走勝利したにも関わらず、低人気で小倉と言うレベルが低い所で勝利した事が響いたのか4番人気。
結果は先行しつつも伸びたのだが、最後の最後で後ろから差されて3着に敗れてしまった。
「アイシクルランスではなくレッドミラージュの方が先にOP入りか……この状況だとアイシクルランスは菊花賞を目標にした方が良いかもな」
山吹賞のレース結果が表示されているTVを見て、秋名は吐息を吐き出しつつ春のクラシックをあっさりと諦めたようで、その表情は次を見据えていた。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:ビッグショウリ……父はノーザンテースト。