黒船賞。

     高知競馬場で開催される交流戦の重賞――G�靴巴撒�離ダート重賞が少ない中、1400mと言う距離が与えられている。

     ローカル重賞に近いので、メンバー構造は中央競馬のダート路線と同じくらいか或いはそれより落ちる面子。

     そのため、距離適正が1200mで限界のヤマトノミオにはチャンスが巡ってきたとも言えるだろう。

     上手い具合に嵌れば勝てる可能性は高いと見込めるのだが、距離適正の限界を超えた距離がどう影響するかが問題。

 

    「うーん、一応人気はあるね」

 

     名雪は黒船賞の出馬表が掲載されている競馬新聞をじっくりと眺めつつ、ヤマトノミオと書かれた馬柱を指差しで確認。

     △が3つだけ、と人気があるかと言われれば無い方だが無印よりはまだマシな感覚だろう。

     近5走の結果が1着→1着→2着→2着→6着と細かい詳細と共に書かれており、前走のガーネットSでの評価は特に悪い。

     好位儘と伸びなかった事を安易に示している事が掲載されているのだが、実際に伸びなかったのが事実なのだから。

     短評も“展開が嵌れば”と穴馬らしい評価で書かれているので、この距離で無理だと思われている節が高い。

     中にはピークを過ぎたと結論付けられた評価もあり、この点だけはKanonファームの誰もが同意する訳は無かった。

 

    「ピークが過ぎた気は全然しないんだがな」
    「……でも、そろそろ引退させる時期は近づいていてきた気もします」
    「6歳だからね。今年一杯で引退させるのは間違っていないと思うよ。3連勝した時が去年の1月から5月に懸けてだったし、ピークは過ぎて無いと思う」

 

     名雪は再び、視線を競馬新聞に向けて黒船賞に出走する他馬の成績が記入された馬柱をチェックしていく。

     ヤマトノミオ以外の中央からの出走馬は今年のガーネットSで重賞制覇を達成したビッグショウリが。

     この馬――ビッグショウリの馬名を見つけた時、名雪は顔を嫌そうに顰めて眉間にしわを寄せてしまう。

     今年のガーネットSで絶対本命のヤマトノミオを破ったので、名雪の中では苦手意識が芽生えてもおかしくないのだから。

 

    「うーん。フェブラリーSで結果が悪かったからってこっちに出走しないで欲しかったな」

 

     ヤマトノミオとは違いビッグショウリは芝でも結果を出して、1600mまで持つ馬なのだから、名雪がぼやいてしまうのはその点に尽きる。

 

    「んー、まぁ、それ以外は怖い馬は居ないね」
    「そこが今回のチャンスとも言えるわね」

 

     交流戦だが、開催地区が高知と小回りで直線が短いからかメンバーはそれほど集まっていないのだから。

 

 

     そんな訳で本日は黒船賞が開催される為、秋子と秋名が珍しく高知まで遠征している。

     久しぶりの小旅行となるので、1泊の宿泊付きの遠征となっている。

     主な目的は黒船賞がメインだが疲労が溜まった身体を癒す事も大事なので、既に天秤は黒船賞よりも温泉の方に傾いているかもしれない。

 

    「勝てれば盛大に料理が食えそうだが、そう簡単に問屋が下ろさないよな」
    「そうでしょうね。勝てる可能性はあっても地方馬のマークが厳しいでしょうし」

 

     やれやれ、と言いたげにスーツを着込んだ秋名は肩を竦めつつ、馬主席から競馬場全体を見やっている。

     重賞開催とは言え、ちらほらと観客席が空いているので中央とは比べ物にならない観客動員数。

     それでも高地では唯一の交流重賞なので、時間が経つ度に観客の数がドンドンと増加していった。

 

 

     そして、黒船賞の開催時間になり、各馬がゲート前で誘導員に曳かれてゲート内に収まっていく。

     ヤマトノミオは運良く1枠1番からのスタートとなるので、距離ロスが無いのは大いに歓迎出来る状況。

     だが、高知競馬場は内枠の砂が深くて小回りと言う不利になりやすい条件が整っているため、喜ばしい状況とは一概に言えない。

 

    「最悪だな」
    「黒船賞が開催される前までのレースでは1枠は1頭も連対していませんから。外に出せないようにマークされるのは必然でしょうね」

 

     秋子は自身の周りに置かれているソファーに座っている他馬主の様子をチラリと伺い、妙に視線が集中している事を実感している。

     そうこう話している内にレースは既にスタートを切って、雪崩れ込む様に位置争いが演じられている。

     ヤマトノミオは出遅れた訳でもなく最後方からレースを進めており、いつもの脚質とは違う事に観客席からはどよめきが聞こえてくる。

     進路は内から外に持ち出されて、深い砂の部分を駆ける事を騎手が嫌った様で思い切った展開に秋子は満足そうに頷いている。

 

    「このまま、内枠で囲まれてダートが深い場所を走って体力を消耗するよりは距離損を考慮して外を走らせた方が良いな」

 

     秋名は口端を軽く吊り上げて、ニヤリとターフビジョンに写るレース展開を楽しそうな表情で見つめる。

     残り距離は400m。

     スルスルと外から脚を伸ばして、ヤマトノミオは12番手から8番手に上がってきた。

     高知競馬場は直線が200mしかないので、仕掛け所を間違えると届かず惨敗と言う事が有り得るのだから騎手の判断は間違っていない。

     残り200m。

     外から脚を伸ばし徐々に前を捉えようと、もがくいているが前を走るビッグショウリにはとても届かない。

     そして、他の馬にも交わされてヤマトノミオは12頭中6着が精一杯だった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ビッグショウリ……父はノーザンテースト。