今週の競馬は未勝利に在籍中のアイシクルランスが出走する事になっている。

     前走は僅差の2着だったので今回こそは、と力が入っている状況が関係者内にも広がっている。

     能力はあるはずなので調教師も期待している馬の1頭に含まれているのだが、1勝目を飾らなければ意味が無い。

     徐々に距離を伸ばして新馬戦と未勝利戦の結果は4着から2着に上がっているので間違いなく、距離が長い方が好成績を残せるだろう。

     今回出走するのは小倉で開催される芝2000m戦で、ローカル競馬での出走となるからメンバー構造は前走よりも楽な相手になっている。

     即ち、確勝級となるメンバー相手に勝利して、そこから勝ち癖を付けていけばそれなりの結果を残せるだろう。

 

    「この時期の小倉なら開催期間も短いですし、夏開催時に比べるとそれほど強い馬が集まるとは思えませんから、チャンスだと思いますよ」
    「前日輸送でレース後にトンボ帰りするんだったな。それなら疲労もあまり溜まらないしチャンスだな」

 

     冬の小倉は1月の中旬から2月の中旬の1ヶ月開催で、そのうち重賞は小倉大賞典――G�靴里漾�

     その1ヶ月開催の為に滞在して、小倉開催が終了したらそれぞれのトレーニングセンターに戻らなければならないのだから。

     元の厩舎に帰厩しても輸送疲れで直ぐにレース登録が出来る訳も無いので、この時期で小倉滞在は今後の事も考えると、利用価値は低いだろう。

 

    「まぁ、勝利してもらわないとアイシクルランスの今後が安心出来ませんからね」
    「晩成の可能性もありそうだがな……その点だけは私も賛成だ」

 

     早めに勝ち上がらないと、3歳未勝利戦が無くなってしまう10月までに勝利出来ないと想像したのか、秋子の表情は蒼白気味になっていた。

     その事に気づいた秋名は秋子の頭を軽くヘッドロックしつつ、片手で絹の様に柔らかさを持つ秋子の髪をグチャグチャになってしまうまで撫で続けた。

 

    「今から、そんな先の事まで迷っている必要は無いだろう。その時になってから考えれば良いと思うが」

 

     秋名がパッと秋子の事を放すと、秋子は小さく頬を膨らませながらグチャグチャに跳ねている髪を手櫛で直していく。

     その表情は妙に子供っぽさを備わっており、今年17歳になる娘――名雪が居るとは思えないくらい若々しい顔であった。

 

 

     そして、アイシクルランスが出走する当日となり、競馬新聞にはグリグリの◎◎◎◎◎と、圧倒的人気を示されている。

     前日オッズでは1.2倍と付け入る隙が無いほどの人気であり、未勝利戦ながらこの人気は余計なプレッシャーになる。

     とは言え、このメンバー相手に勝利を飾らないと先は無いに等しく、クラシック路線なぞ夢のまた夢に終わってしまう。

 

    「うーん、この人気ならあっさりと勝ってもらわないとこれから先で困る事になりそうだね」
    「間違いなく、春のクラシックは諦める事態になるだろうな」
    「だからこそ、確勝が期待出来る小倉に出走させた訳ですけど、これなら成功ですね」

 

     まだ走ってもおらず、レース結果も分からない状況だが、少なくとも小倉に遠征させた調教師の決断は間違っていないので成功と言える。

     更に勝利さえすれば今回の遠征は大成功と言っても良い位な出来事。

     そんな訳で秋子はTVのチャンネルを競馬専用番組に変更して、アイシクルランスが出走する未勝利戦前のレース結果が表示されている。

     この競馬番組は味気無いレース結果を表示するが、バラエティ色は一切無く全レースのパドックを放送しているので競馬関係者には好評な番組。

     別のチャンネルで放送されている競馬番組と違い、贔屓目で馬を紹介する事も無いので、まさに競馬専用番組と言っても差し支えない。

 

    「6枠6番アイシクルランス。馬体重は前走比−4kg。現在は1.1倍のオッズです」
    「調子は間違いなく良いと思いますが、前走から距離を200m短縮した事がどう響くかがネックですね」

 

     と、実況がアイシクルランスを評価しており、唯一の不安点である距離短縮を例に挙げていた。

     それでも圧倒的人気なのは代わり無いので、実況のコメントも1番評価されているのが伺えた。

 

 

     そして、レース開始時間になり、各馬が奇数番号から順次ゲートに入っていく。

     最後に8枠12番の馬が入るとゲートが開いて、これといった出遅れも無く各馬綺麗なスタートを披露。

     小倉2000mとは言え、直線は短く小回りの競馬を強いられるので先行勢が非常に有利になりやすい。

     そのため、アイシクルランスの騎手は4番手からのレースを進め、絶好の位置から先頭を走る馬の様子を伺う。

     平均的なペースで動いており、どの馬にもチャンスがあるのだが、アイシクルランスの手応えは良い様で騎手が手綱を引っ張って行きたがる素振り。

     入れ込んでいる訳ではなく、前の馬を追い抜きたい気持ちが現れている様だが残り距離がまだ800mもあるので、早くからは仕掛けられない。

     そして、そのまま展開は変わらないと思ったが、3コーナーと最終コーナーの中間辺りから、アイシクルランスが勢い良く上がってくる。

     その勢いを持続したまま、アイシクルランスは直線に入っても決して止まる事も無く、2着馬に5馬身差を付けた圧勝劇を観客に見せ付けた。

 

 

     戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。