93年度のKanonファーム生産馬で最初にOPクラスに在籍する事になった馬はよりによって売却したルビーロウが1番乗り。

     既に売却した馬を構っていられる状況ではないのだが、生産馬が勝利したと言うことはKanonファームの評価が著しく上がる。

     一応、生産馬がOPクラスに昇格した事は非常に喜ばしいので、次のレースに期待せざるを得ない。

     現時点では次走は未定のようだが、これまでの成績を鑑みるとマイル路線――最終的にはNHKマイルカップが目標になるだろう。

     案外、距離適正を無視してクラシック路線に向かうかもしれないが現在の馬主である宮藤の心中は秋子には分からない。

     だが、間違いなく勝ち誇った表情を浮かべている事は安易に想像出来るようで、秋子の表情は悔しさで滲んでいる。

     売却した事は後悔していないが、ライバル馬主である宮藤が今年の勝利を秋子よりも最初にした事が理由。

     そんな訳で、秋子としては早めに勝利――1勝目を飾って追いついておきたいのが心情だろう。

 

    「来週出走するのはファントムロードね……本当にそろそろ勝利して欲しいわ」

 

     と、秋子は愚痴を溢す様にひとりごちていると、本日の厩舎作業が終了した秋名が汗を拭いながらリビングに戻ってきた。

 

    「今までが順調過ぎた可能性もある筈だがな。資金面の方は問題ないんだから ドッシリと構えていた方が良いぞ」
    「そうなんですけどね……やはり勝てないと上手い具合に突き進めない感覚があるので、わたしとしては早めに勝利して欲しいんですよ」

 

     秋子はソファーに座ったままで背中越しに話しかけて来た秋名に対して、自身の考えを述べる。

     秋名は納得したようだが大きく肩を竦ませてオーバーリアクションなポーズをしつつ、溜息を吐いてしまう。

     この状態では何を言っても無意味に近く、早く1勝目を飾れば秋子の心情は普段通りに戻る可能性が高いので、秋名はファントムロードに期待するのみ。

     そうでないと、全体の士気が関わってくるのだから秋名はもう一度、大きく溜息を吐いてから見慣れたいつもの天井を見やった。

 

 

     そして、今週の競馬にはファントムロードが500万下特別に出走し、ホワイトウインドが待望の重賞に挑戦する。

     出走するのはファントムロードは、500万下特別のかささぎ賞でホワイトウインドがG�靴諒唇贈咾法�

     平安Sの方は参加賞に過ぎないような人気で、デビュー時の白毛騒動に比べると非常に人気が無い。

     前走は平安Sと同距離の花園Sを勝利しているが、流石に重賞となると面子の差があるので、最低人気――16番人気だった。

 

    「こちらの方は期待し難いですけど、初の重賞挑戦ですから何かを得て欲しいですね」
    「まぁ、当初はここまで来るとは思ってなかったからな……ホワイトウインドも随分と力を付けてきたな」

 

     白毛馬としてレース結果は期待されていた訳でもなく、むしろマスコットの近い感覚でレースに出していたが、いつの間にダート路線で結果を出すように。

     トップクラスの実力を持つ訳でもないが、コツコツとここまで成績を上げてきたのは素直に賞賛されるだろう。

     そんな訳でホワイトウインドが重賞に出走する事になったのは、3人にとっては感傷深い事。

     とは言え、まずはファントムロードのかささぎ賞が先に行われるので、楽しみは後回しになるのだが。

     かささぎ賞の方は小倉芝1200mで開催され、前走のりんどう賞――芝1400mで脚が止まったファントムロードには勝機がある距離。

     なので、今回は期待出来る状況となり得るからか、ホワイトウインドの重賞よりも期待感がある。

     因みに現在の人気は前走か不甲斐ない結果――5着だったので、6番人気と前走の3番人気よりも下がっていた。

 

    「うん、前走の結果からしてこの人気なら納得かな」
    「そうだな……けれど、勝てる可能性は高い筈」
    「……そうなると良いんですけどね」

 

     と、秋子の心情は相変わらず先週から状況が変わっていないので、秋名と名雪からしてみれば、ここは勝利してもらわないと困る事になるだろう。

     そのため、所々の語句を強めて話している状況でリビングの雰囲気は妙にギスギスしてしまっている。

     そして、3人が勝利を祈る中でファントムロードは2着馬を鼻差に凌いで無事に2勝目を飾った。

     秋子はホッと胸を撫で下ろして、秋名と名雪は別の意味――これで普段の雰囲気に戻る事を察して、安堵の溜息を深く吐き出す。

     因みにホワイトウインドの方は実力不足があっさりと現実となり、大きく離される事は無かったが14着と惨敗。

     何時にもなく他馬が蹴り上げたダートを被った白い馬体は、汚れた場所が無いほど真っ黒に見えてしまった。

 

 

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