Kanonファームにとって、年明けの3走は頭を抱えてしまう微妙な結果からのスタートになってしまう。

     期待していたヤマトノミオがガーネットSで得意の距離ながら6着と、惨敗したため一気に暗雲が立ち込めてしまった。

     一応、2着2回はあるのだが500万下と未勝利での結果なので、微妙に喜べないとも言える。

     そのためレースに復帰していないホワイトウインド、ダンシングウイナー、ファントムロードの3頭に初勝利を期待するしかない。

     宮藤綾乃に売却したフラワーロックの93――ルビーロウが一応、Kanonファームの生産馬だが、既に自身の馬ではないので勝利はプラス出来ない。

     ルビーロウの復帰レースは来週の500万下から、と通達によって秋子は知っているが、口出しは出来ないので同意するしか無かった。

     大手牧場になれば、生産者と調教師、馬主の3者で交えてローテーションを決定する事が可能だが、Kanonファームではそこまでの力は無いと言える。

 

    「ルビーロウは来週の500万下に出走となると……白梅賞か一般戦の500万下かな」

 

     名雪は競馬雑誌に記載されている特別レース出走登録ページの一覧を指で這わせて、出走登録を行っているかチェック。

     そして、19頭目にルビーロウの馬名が白梅賞に登録されている事が確認出来たのだが、この状況では確実に出走出来るとは限らない登録数に。

     そのために中山で開催される500万下――芝1200mにも登録しているようで、予備としてダブル登録を選んでいる。

     中山の方は登録頭数が少ないので、白梅賞が除外されれば確実に出走出来るだろう。

     距離が前走から一気に400mも短縮される問題点があるのだが、仕上がってしまっている状況で次週に回したら体調が下降してしまう恐れが。

     なので、ここでダブル登録を行って出走権利を得るためと言う経緯。

 

    「出来れば特別戦に出走してほしいけど、登録数が多いから抽選を潜り抜けてくれれば良いんだけど」
    「ここまで登録数が多いと思わなかっただろうし、後は運任せしかないわね」

 

     秋子は頬に手を当てつつ小さく吐息を吐き出して、最近は勝てない事を実感しているのだろうか、その溜息はいつにもなく辛気深いものだった。

     それだけ年明け3戦の結果に堪えているようで、特にガーネットSの結果が思わしくなかった事が一因だろう。

     まだ3戦とは言え、最初の結果が今後に影響すると言ってしまえば、スタートから躓いた格好なのだから。

 

 

     さて、そんな訳でルビーロウの出走日となったが、無事に白梅賞の出走権利を得た。

     そんな訳で、Kanonファームのリビングには何故か宮藤綾乃が自分の牧場で観戦をしないで、こちらにやって来ている。

     相変わらず、笑みを浮かべた表情でお嬢様らしい態度を振舞っているのだが、秋子は口元を軽く押さえているので、そうした態度は意味が無いようだ。

 

    「わざわざ、うちで観戦するのは何故でしょうか?」
    「わたくしの所有馬が勝利する所を貴女に見せ付けるためですわ」

 

     毎回、同じようなやり取りを行っているが、秋子は笑みを浮かべて、このやり取りを楽しんでいる節が。

     秋子と同等な女性馬主――宮藤綾乃の所有馬はまだ重賞勝利はしていないが、同じ位置に立つ事を望んでいるのだから、秋子は追い返すつもりは無いようだ。

 

    「何を笑っているんですの?」
    「いえ、別に意味がある訳ではないですよ」

 

     その言葉に宮藤は悔しそうな表情で眉間にしわを寄せてしまうが、自身らしくないと思い直したのか、頭をゆったり左右に振って秋子に向き合う。

     そして、白梅賞のレース開催時間が迫ってきたので、2人の間で会話は競馬の事に関する事に切り替わる。

     今の所ルビーロウは6番人気に支持されており、1番人気から離された人気だが、実績面から言って仕方ない。

     1番人気の馬は新馬戦を楽勝したばかりの馬で能力面はずば抜けていると、想像されている。

     そのため未勝利を楽勝したとは言え、ルビーロウとはまったく評価が違っていてもおかしくない。

     ルビーロウが3番手辺りからレースを進めている状況で、先頭に立っている逃げ馬が大きく2番手の馬を引き離している。

     ハイペースには違いないが、この展開では3番手にいるルビーロウには影響が少なく、今の所は追い駆ける馬が居ないので悠々とスタミナ温存中だろう。

     1番人気の馬が逃げ馬を追いかける展開になっているのか、6番手付近を走っていた1番人気の馬が徐々に進出していく。

     こうなってしまえば、1番人気の馬の実力が圧倒的に抜き出ていないと逃げ馬を追い駆けつつ、後方から押し寄せてくる他馬の追撃を凌ぐのは厳しい。

     そして、直線に入ると思った通り1番人気の馬は前走よりも勢いが落ちて、突き放すような脚が残されない状況に。

     逃げ馬と1番人気の馬が自滅した事で、ここぞってルビーロウを含めた他馬が勢い良く上がってくる。

     だが、後方に居た馬は4コーナー付近からのまくりで脚を徐々に無くして、代わりに良く伸びたのがルビーロウと言う結果に。

     勝利したのはルビーロウで宮藤は秋子に向かって指を差しながら、勝利宣言を行ってしまった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。