Kanonファームは新年になっても、しっかりと牧場経営が行われており、破産する牧場が徐々に増加している中でキチンと成果を出している。

     馬の生産数も減少しているので、これからの牧場経営は厳しくなると言う見解が広まっているが、秋子はそんな噂に左右されずに経営を行う。

     さて、そんな状況が牧場関係者に広まっているにも関わらず、Kanonファームのリビングでは談話に花を咲かせている。

     秋子、秋名と名雪が話の中心としているのは、久しぶりに地方競馬教養センターから戻ってきた祐一がこの場にいるから。

     さすがに1年間毎日騎乗していれば、しっかりとした筋肉が身に付いているのがはっきりと分かるくらいで、ヒョロヒョロとしていた印象が無くなる。

     そして何よりも、名雪は悔しそうに自分自身よりも身長が高くなった祐一を上目使いで見上げるような形で舌打ちをしてしまう。

 

    「まさか、祐一に身長で負けると思わなかったよ」
    「わざわざ、数cmくらいで目の敵みたいに言うなって。名雪だって身長伸びているだろうに」

 

     やれやれと祐一は軽く肩を竦めると、秋子お手製の御節に手を伸ばして黄金色に輝く数の子に箸を付ける。

     祐一は減量の事があるので、重箱は目の前に置かれているのは通常よりも小型の物で、カロリー計算を考えて秋子が祐一用に注文した物である。

     因みに秋子達は普通サイズの重箱から御節に手を伸ばしている状況で、全員揃って同じ物を食べているので、祐一にとっては省かれた感覚は無いだろう。

 

    「騎乗の腕は上がったか?」
    「それは判断し難いな。最初のアドバンテージがもう既に無い状況だから、後1年でどこまで技術が上がるかだな」
    「そんなもんですか?」
    「そんなもんです。見る見る内に乗馬すらした事が無い奴が、あっさりと乗れる様になって、簡単な障害もクリア出来る様になりますからね」

 

     秋子はなるほどと小さく頷いてから、日本酒が入ったコップに口を付けて、ゆっくりと上品に飲み干す。

     ほんのりと赤く染まっている頬に秋子は手を当てつつ、コップに再び日本酒を満たしていく。

 

    「まぁ、少しずつ上がっていけば問題は無いでしょうし、頑張ってくださいね」
    「ええ、出来るだけ善処しますよ」

 

     祐一は力強く頷き、秋子を納得させるだけの語句の強さを持っていたようで、秋子に笑みを浮かべさせた。

 

 

     祐一は生産馬の様子を見るために厩舎に向かっていくが、その隣には名雪が寄り添う様に歩いている。

     サクサクと雪を踏み鳴らしながら厩舎に向かっている状況だが、色気がまったく無い雰囲気を醸し出していた。

 

    「最近の成績はそれなりに良くなっているな」
    「一部だけな気もするけどね。イチゴサンデーなんか偶々に過ぎないと思うし」

 

     あんなにあっさりと海外勝利していたら、とっくにうちはトップに君臨しているよ、と名雪は胡坐を掻く様な事を口にしない。

     祐一もそれには同意しているが、引退させるのが勿体ないと言う表情を      名雪に向けたが、向けられた本人は淡々としている。

 

    「んー、あまり無茶させて故障発生とかしたら目に当てられないし」
    「そりゃあそうか。繁殖牝馬としての活躍もしてもらわないと駄目だしな」

 

     そういう事と、名雪はあっさりと頷いて厩舎に向かっていった。

     祐一もその後に付いて行き、その後はまったく会話の状況で厩舎まで歩いていくが2人はまったく気にした様子は無かった。

 

 

     厩舎にたどり着くと、名雪は木製の門を開いて厩舎内に入っていく。

     ここは繁殖牝馬の厩舎で、7頭の牝馬がそれぞれの馬房でゆっくりと構えている。

 

    「一気に繁殖牝馬が増えたな」
    「んー、イチゴサンデーが繁殖入りしたからそう見えるだけじゃない?」

 

     それ以外の理由は無いだろうし、と名雪はにべもない答えを口にして祐一を苦笑いさせてしまう。

     名雪はそのままスタスタと歩き馬房に近づくと、ヌッとイチゴサンデーが顔を出して一纏めにされているポニーテール状の名雪の髪に噛み付く。

     だが、名雪は気にした様子も見せずにそのまま齧らせた状況で、イチゴサンデーの額をゆっくりと撫でている。

 

    「イチゴサンデーの種付け相手は決まっているのか?」
    「んー、全然決定してないよ。これだけ有名所の血が多く持っているから逆に難しいんだよね」

 

     1回くらいはインブリードの配合を考えているけどね、と名雪は一応配合の事を考えているようで、明確な相手は口にしないが案は纏まっている様子。

 

    「いつか、乗せてもらえるように頑張らないと駄目だな、これは」

 

     ふん、と名雪は祐一の言葉に馬鹿にした感じで鼻を鳴らしつつ、その表情は嬉しそうに口端を吊り上げて笑みを浮かべていた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。