――1995年度の下半期に開催されたGⅠは全て無事に終了した。

     まずは古馬中長距離から振り返っていく。

     天皇賞・秋は今年のAJCCは安田記念2着の実績を持っていたサクラチトセオーがGⅠ6戦目で見事に勝利。

     因みに半妹には今年の秋華賞を制したサクラキャンドルがおり、兄妹GⅠ制覇を達成した母のサクラクレアーはこれで一気に名牝の仲間入りだろう。

     続くジャパンカップは凱旋門賞に出走した以来のナリタブライアンが、復帰するとなったので人気になっていたが結果は6着。

     絶頂期には違いないが、長期海外遠征の疲れが残っていたとしか言い様が無い結果であった。

     そのジャパンカップを勝利した馬はドイツの名馬ランド。

     ドイツダービーやバーテン大賞を制した実績馬で、世界に溢れているノーザンダンサーの血を一切引かない傍系の馬。

     そして、何よりも今まで勝利している距離は2400mが圧倒的に多いので、距離適正のレースを選んだ陣営の勝利だろう。

     古馬中長距離戦の最後は今年1年間の最後を占める有馬記念。

     出走してきたメンバーは非常に濃く、GⅠ勝利馬はナリタブライアンにヒシアマゾンの4歳2頭。

     5歳馬からは今年の天皇賞・秋を制したサクラチトセオーとエリザベス女王杯を制したアイリッシュダンス。

     3歳馬は皐月賞馬のジェニュインと夏の上がり馬らしく菊花賞を勝利した新鋭のマヤノトップガン。

     これだけのメンバーが揃うだけでも良い方なのに、GⅠ戦で善戦を重ねる名脇役のタイキブリザード、ナイスネイチャ、ロイスアンドロイスが。

     このメンバーの中で有馬記念を制したのはマヤノトップガン。

     父はブライアンズタイムで、この勝利でブライアンズタイムは去年のナリタブライアンに続く菊花賞と有馬記念の連覇をあっさりと達成。

     マヤノトップガンは典型的な夏の上がり馬でダービー当日は中京のダート1700m戦で500万下を卒業した所であった。

     その後1000万下を勝利し、神戸新聞杯の2着から菊花賞と有馬記念を制したのだから、ライスシャワーやメジロマックイーンに近い存在。

     続く3歳クラシック路線は上記の様に菊花賞はマヤノトップガン、秋華賞はサクラキャンドルと夏の上がり馬が制した珍しい結果とも言える。

     春の勢力図から一変した結果になったが、これでサンデーサイレンスの成績が止まった訳ではなく、来年の3歳馬にも期待馬が。

     その馬はバブルガムフェロー。

     デビュー戦は2着に敗れた後はトントン拍子で3連勝しつつ、その中に朝日杯フューチュリティSを制した実績馬。

     阪神ジュべナイルフィリーズを制したのはビワハイジ。

     欧州の種牡馬――カーリアンを父に持つ牝馬で、デビューから3戦3勝の成績で札幌2歳Sでは牡馬相手に楽勝した実績が。

     どちらも来年のクラシックは期待出来る逸材だと思われるが、まずはしっかりと休養してほしいところだ。

     短距離路線はスプリンターズSの方はヒシアケボノが制して、マイルチャンピオンシップはトロットサンダーが。

     と、それぞれ異なる馬が制したので、そろそろ短距離路線を統一する様な王者の誕生を期待せずにはいられない状況。

     間違いなく来期もそれぞれのGⅠを勝利した馬は、同距離のレースを使用するだろうし、スプリントとマイルの両距離でGⅠ達成馬の輩出は難しいだろう。

     最後にジャパンカップダートを。

     このレースは久しぶりに白熱した結果で、1着ホクトベガ、2着ライブリマウント、3着キョウトシチー。

     共に中央競馬に所属している馬で、どの馬もダートGⅠが多い地方から名を売り出した名馬。

     今年の春競馬はサンデーサイレンス産駒の1強だったが、秋に失速した時に噴出した早熟論を来年は覆せるのだろうか?

     と、競馬雑誌は複数のページに渡って、サンデーサイレンスの評価が行われており、競馬記者も現在は判断し難い種牡馬のようだ。

 

 

     さて、今年のKanonファームの成績は36戦12勝と、まずまずの成績を残す事が出来た。

     出走数が少ないので微妙な点もあるが、Kanonファームは数多くは出走させない基本方針があるので、十分な成績とも言えるだろう。

     そのうち、勝利した重賞は4つ――ガーネットS、NHKマイルC、アメリカンオークス、京王杯オータムハンデ。

     これで通算重賞勝利数は13勝と、日高地区では大手牧場の仲間入りしたと言っても過言ではない。

 

    「さて、来年は芝路線でダンシングウイナーに活躍してもらわないと厳しいわね」

 

     現在、秋子が所有する現役馬は7頭で古馬路線ではダンシングウイナーが唯一の芝向き馬なのだから。

     秋子は手書きのノートに今年の成績と主な勝ち鞍、勝因と敗因を詳しく書き込んでから吐息を吐き出す。

     肩には薄いピンク色のカーディガンを掛けて、解いた三つ編みが妖艶さを醸し出している姿では絵になるような格好であった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:サクラクレアー……父はノーザンテースト。
     注2:ランド……ドイツの牝馬は頭文字にLを付けるのが規則で、このランドは牡馬だが、Landoとなっている。      注3:アイリッシュダンス……実際はGⅠ勝利をしていないが、GⅢは2勝している。
     注4:マヤノトップガン……父はブライアンズタイム。
     注5:バブルガムフェロー……この時点では4戦3勝の成績。
     注6:ビワハイジ……札幌2歳Sと阪神ジュべナイルフィリーズの勝ちがある。
     注7:キョウトシチー……実際ではこの時点で、GⅠに出走出来るほどの実績は持ってなかった。