マイルチャンピオンシップのパドックには１８頭の精鋭が１頭ずつアナウンサーに馬名と枠番、前走比の馬体重が読み上げられていく。
ストームブレイカーはこの引退レースであるマイルチャンピオンシップに全力を尽くす為に、余分な脂肪を取り除いた馬体に仕上がっている。
スプリンターズＳではやや余裕のあった腹もくっきりと絞れて、トモの張りもいつにもなく良い状態。
そして何よりも胸前の筋肉がガッチリと鍛えられており、短距離向けの馬体として、しっかりとした仕上がり。
−１２ｋｇと他馬よりも大きく体重減少させて、しっかりと付く所には付いた筋肉がいつもよりも目立てさせている。
当たり前だが他馬もＧ�祇錣蕕靴�仕上がりは良いので、これで同じ土俵に立ったと言えるだろう。
調教師も引退レースと言うのは感傷深いのか、いつもよりも強気の攻めで仕上げたのがはっきりと伺える。
もちろん、どんなレース――未勝利でもＧ�気任發靴辰�りと仕上げるのが調教師には当たり前な事だが。
なので、今回の調教は引退の餞として、マイルチャンピオンシップを制する事を調教師から期待されている。
「さて、あとちょっとで最後のレースか……」
「有終の美を飾ってほしいですけど、あまり大きな注文は言えませんから無事に回ってきてくれると良いんですけどね」
「引退後はどうするの？ うちで調教パートナー兼乗馬になるの？」
１歳馬の調教パートナーはタイフーンが勤めているが、１頭だけでは役割分担が出来ないので、ストームブレイカーも調教パートナーになる可能性が高い。
ストームブレイカーが１歳馬の調教――人を乗せないので追いかけさせるだけの調教でも、１歳馬にとっては十分な身体機能が作れる事になるのだから。
基礎体力を作り上げて、春には育成牧場に預けるのが現在のKanonファームのやり方で、こうした調教方法で徐々に成績が上がっているのが現状。
因みに今まではジェットボーイとアストラルが調教パートナーを行っていたが、流石に年齢が厳しいので、現在は悠々自適の功労馬生活となっている。
「今日の結果次第では別の道もあるだろうし、今すぐ肯定は出来ないわ」
「んー……もしかして種牡馬のお誘いがあるの？」
ストームブレイカーの血統はどちらかと言うと２流だが、サクラユタカオー×ノーザンテーストはサクラバクシンオーと同じ配合。
そして、丈夫さを持ち合わせているので代替種牡馬として白羽の矢が立ったとも言える。
因みにサクラバクシンオーは大手牧場で繋養されているが、種付け料が２００万と中小牧場にはやや厳しい値段でもある。
ストームブレイカーが種牡馬入りすれば種付け料は５０万程になるので、中小牧場には種付けしやすい種牡馬になり得る。
そして何よりも、Ｇ�毅仮，靴討い襯ぅ船乾汽鵐如爾糧招擦噺世�事が１番の利点。
「なるほど納得したよ。そういう事なら頑張ってもらわないとね」
秋子が直ぐに肯定出来なかった理由が分かった名雪は気が抜けるようなガッツポーズを出して、秋子を苦笑いさせてしまった。
そして、レース開始時間が迫るにつれて観客席からのざわめきがドンドンと大きくなっていく。
スターターが台に上がって、赤旗を大きく左右に振り、それに合わせて京都競馬場のＧ�汽侫．鵐侫 璽譴�合奏者によって演奏される。
各馬は嫌がる事も無く順調にゲートに入っていき、最後に大外の８枠１８番のメイショウテゾロが入りゲートが開く。
１頭も出遅れる事無く綺麗なスタートで各馬は先行争いを伺う。
ヒシアケボノは４番手、ビコーペガサスはその後ろからマークするような格好で６番手辺りから。
トロットサンダーは７枠１３番と外からのスタートだったので、馬群に包まれることも無く９番手付近で脚を溜めている。
そして、ストームブレイカーは１２番手辺りにおり、いつものレース振よりも後ろの方で先頭の様子を伺っている。
ペースはマイルらしく平均よりもやや速い展開になっているので、ストームブレイカーには申し分が無い展開。
だが、ストームブレイカーの前に居る３頭はいずれもこのレースでは実力からして、ストームブレイカーよりも上と言い切れる。
如何に３頭をまとめて差しきるかが騎手の腕に問われる事なので、仕掛け所を間違えると惨敗する可能性も。
現在、先頭を駆けている馬は向こう正面の上がり坂を上がりきった所でレースは既に佳境に入って、残り距離は８００ｍ。
ここから進出した馬は居ないが、徐々に他馬も先頭集団に追いつこうと上がっていく。
前を走っている馬が残る可能性を考えると１％にも満たないかもしれないが、そうでもしないと上位馬に喰われる可能性が高い。
それくらいの覇気を孕んだ状況で、格下馬が上位馬に勝つには奇策と普段の実力を出せる状況が大半を占めている。
そして、その下り坂で一気に下ったのはトロットサンダーでその後ろからはメイショウテゾロが一緒に上がっていく。
ストームブレイカーは無理して付いて行く事無く、一呼吸溜めている状態で騎手の腕は動いていない。
４コーナーに入り、ここからビコーペガサスとヒシアケボノが先頭馬を捕らえに行く。
馬場の中央を突くビコーペガサスとヒシアケボノに対して、トロットサンダーは大外一気の脚で先行馬を一瞬で飲み込んでいく。
ワンテンポ遅れてストームブレイカーが内枠の有利を利用して、内回りと外回りのコースがある京都競馬場ならでの騎乗方で内枠を突く。
グイグイと今まで以上の伸び脚でトロットサンダーに迫っていくが、前を走るメイショウテゾロが意外と粘っている。
残り２００ｍ。
ここでようやくメイショウテゾロを捕らえ一気に交わしに掛かったが、トロットサンダーは既に２馬身先を走っている。
ヒシアケボノとビコーペガサスは既にストームブレイカーの後ろにおり、交わされる心配は無かった。
その結果、ストームブレイカーは最終的には１馬身の差まで追い詰めたが勝ったトロットサンダーは余裕のある走りで新たなマイル王者として君臨した。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。